殉愛 2
水車は回る 川の流れが 水車を回す
川は流れる 海へ続いて 永遠に流転する
<回る水車が見せる、少女の物語>
来る日も来る日も、楽しい水車小屋での作業。
少女は粉を引き、その合間に小鳥達と歌う。通り抜ける風に乗って、軽やかな歌声が川辺を彩る日々。
肩に止まった小鳥と歌っていると、ふいにその小鳥より、少し大きな同じ模様の鳥がやってきて、少女の腕に止まった。
チチチチッ
その鳥がさえずると、肩の小鳥もさえずり返し、チョンと大きな鳥の横に移動した。鳥たちは並んで何事かを話しているかのようだった。
「まあ、お母さんが迎えに来てくれたのね」
少女が小鳥にそう訊ねると、小鳥は首を傾げてピピピと可愛らしい声で鳴いた。
「いいわね、あなたはお母さんが迎えに来てくれて。でも、寂しくなんかないわ。わたしには、優しいおばさまが居るもの」
鳥たちは、暫く少女の腕の上で歌った後、揃って空へ飛び立った。
「ぜんぜん寂しくなんてないわ。だって私は幸せだもの」
香りの良い花が沢山咲いている、日当たりの良いこの水車小屋。
喉が乾けば美味しい水で喉を潤し、ともに歌ってくれる綺麗な声の友だちも沢山いる。粉を引いて帰れば、おばさまがとても喜んで褒めてくれて、美味しいご飯を沢山食べさせてくれる。これを幸せと呼ばず、なんと言おうか。
自分には両親が居ないことも、ここに来るまでの記憶がないことも、帳消しにできるくらい、自分は恵まれているのだ。そんな事はよく理解しているつもりだった。
そして、来る日も来る日も、少女は自らにそう、言い聞かせ続けている。
「おじさまとおばさまには、本当にお世話になっている。私がこうして幸せに生きていけるのも、おじさまとおばさまのお陰。感謝しなくてはね。」
暖かい二人の微笑みを思い出しながら立ち上がり、少女は遠くへ飛んで行った親子の鳥を見送るのだった。
そうして丁寧に粉を引き、お世話になっている夫婦の元へと持ち帰る日々は続いた。近くには他に民家もなく、少女の友だちは水車小屋の周りの鳥たちだった。
その日も、いつもと同じうららかな日で、水車が回るときに立てる水音のほか、そよぐ風に乗せて少女と小鳥たちの歌声が響き渡って居た。
「・・・この声は。なんて美しい声だろう」
普段は現れない訪問者は、暫く少女の美しい声に聞き入って居た。
暫くするとその歌声は止み、立ち上がった少女は水車小屋の中で、粉の具合を確認していた。
その背後から、人影がフラフラと少女に歩み寄った。
続く