読むコント①トンちゃん

誰しもが心に秘密を持っている。

そんな人たちが何故か羨ましかった。



山本「久しぶり〜。」


半田「久しぶり〜、上がっちゃって〜。」


山本「お邪魔しまーす。うわ、これがタワマンか〜やっぱ都会はすごいね〜。」


半田「そんな大したことないよ。」


山本「いやいやいや、それは無理よ。俺なんかいまだに地元に残ってんだぜ。それも実家。」


半田「いや、お前はちゃんと店継いでるんだから偉いよ。」


山本「まあまあまあね、でもさ、俺も人生で一回はこういう景色のところに住みたかったよ。」


半田「そうかな。」


山本「そうだよ。お前自分が選ばれしものってことを自覚しろよな。こんなとこに住んで、人を毎日見下ろして。」


半田「見下ろしてって嫌な言い方だな。」


山本「だってそうだろ、こんなとこに住めたら俺だったらめっちゃ自慢するけどね。」


半田「まあ、お前はするだろうな。ていうか、早くやっちゃおうぜ。」


山本「そうだな。じゃあざっとおさらいするか。新郎新婦のお色直しのタイミングで俺が急いでスーツから豚のコスチュームに着替える。で、俺が着替えてる間に半田はギターとか諸々の楽器の準備。で、新郎新婦が入ってきたタイミングで、豚のコスチュームに着替えた俺が「ルージュの伝言」を歌うと。」


半田「え、あれそうだっけ。」


山本「え、違った?」


半田「いや、豚のコスチュームって、あれ着替えるんだっけお前。」


山本「そういう話だったじゃん。やっぱただ「ルージュの伝言」歌うだけじゃ物足りないから、視覚的なインパクト残そうって話だったじゃん。」


半田「あ、そうだっけ。え、何で豚なの?」


山本「小学校の時にクラスで飼ってた豚のトンちゃん一番可愛がってたの武田だったろ。その武田のお祝いなんだから、やっぱトンちゃんの色も入れとかないとってなったじゃん。」


半田「何、トンちゃんの色って。あ、そんな話だったか。」


山本「そうじゃんー。しっかりしてくれよー。俺当日トンちゃんなるんだからね。俺の      気持ちにもなってよ。」


半田「あ、ごめん、ごめん。」


山本「あ、てかトンちゃんで思い出したけど、あれ、本当誰だったんだろうな。」


半田「え、何が?」


山本「「トンちゃん窃盗事件」だよ。あったろー。小五の時に。」


半田「あーーー。あった。あれ、でもあれってお前が盗んだみたいな感じじゃなかったっけ。」


山本「え、そうなの。」


半田「あ、やべこれ言っちゃダメなやつだったかも。」


山本「いや、もう聞こえちゃってるよ。え、そうなの!まじで!俺違うぜ!」


半田「いや、でもなんかお前が休んでる日のクラス会議で決まったよ。」


山本「一人休んでたらクラス会議するなよ。え、どんな感じで俺になったの?」


半田「いや、本当に誰か分からなかったから、山本休んでるし山本にするかって。」

山本「え、軽くない?なんか委員長決めるくらいの感じで決めてるけどさ、俺犯人なっちゃってんじゃん。」


半田「いや、まあ流れでというか、とりあえず山本にしておこう的な。」


山本「流れでじゃねーよ!どうすんだよ、え、じゃあ俺いまだに犯人だと思われてんの?」


半田「まあ、どうなんだろ、みんな忘れてんじゃない?」


山本「本当?だったら良いけどさ。いや、良くはねーよ、俺やってねーもん。」


半田「まあ、でも本当にあんま覚えてねーと思うよ。それにみんな本当に山本がやったなんて思ってないと思うし。」


山本「本当かよ。え、でも待てよ。俺武田の結婚式で豚のコスチュームするじゃん。」


半田「するね。」


山本「その時にトンちゃんのこと思い出されたら終わりだろ。見てる側からすれば、豚を盗んだ奴が豚のコスチューム着てることになるからね。」


半田「まあ確かに。」

山本「確かにじゃねーよ!分かるかこの危機的状況!最悪だよ。買っちゃったよ、豚のコスチューム。」


半田「飼っちゃったの?」


山本「買っちゃったの!うわーどうしよ。」


半田「まあ、どうしよって言ってもな。」


山本「よし、犯人見つけよ。」


半田「え」


山本「だから、当時を振り返って犯人をもう一回見つけよ。」


半田「いやもう今更見つけるのは。」


山本「いーや、もう俺の気が収まらない!」


半田「めんどくせー。」


山本「めんどくせーじゃねーよ。そもそも俺が休みの間に流れで決めたお前らが悪いんだからね、お前も手伝えよ。」


半田「うわ、まじかよ。でも俺全然覚えてねーよ。」


山本「いや、何でも良いから二人で思い出せるだけ思い出そ。」


半田「分かったよ。」



山本「まずは時期だな。あの時短パンの清水が青色の短パン履いてたから、冬だな。」


半田「うわ、いたな短パンの清水。なんか季節の感じを短パンの色で表すんだよな。まずは長ズボン履けよって思ってたけど。」


山本「そう、俺はあいつの短パンの色のグラデーションで衣替えしてたからはっきり覚えてる。」


半田「あいつの短パンも役に立ってたのか。それにトンちゃんさ、何時くらいに盗まれたんだろ。」


山本「確か朝の会で先生が説明してたから、犯行日時は先生の説明の前日。」


半田「あ、そうだ。前日の昼休みに俺餌当番だったわ。それで、次の先生の説明聞いたからびっくりしたんだ。」


山本「じゃあ、盗むとしたら、昼休み後の5時間目から次の日の朝にかけてか。」


半田「まあ、授業中に盗む事はありえないから、放課後から朝にかけてだな。そういえばお前放課後よく中庭にトンちゃんと遊びに行ってなかった?」


山本「え、」


半田「そうだ!そうだよ!それでお前ってなったんだ。クラス会議で。」


山本「いや、確かに遊んでたけどよ、本当に俺じゃないぜ!。」


半田「どうかな〜。だってお前清水の短パンよく下げてたじゃん。」


山本「それとこれとは関係ないだろ!あれはお互い様だからね、俺もやられてたし。トンんちゃんは本当に盗んでないからな。それに、俺はトンちゃんと遊んでたというより違う目的で中庭に行ってたの。」


半田「何だよ、違う目的って。」


山本「それは」


半田「何だよ、言えよ。」


山本「もう一人クラスでトンちゃんの事すごい可愛がってた人いただろ。」


半田「え、もしかして、カナちゃん?」


山本「そうだよ、今となっては武田の嫁さんだよ。カナちゃんはさ、積極的な男子が好きだったらしいんだ。だからほぼ毎日中庭に行ったよ。」


半田「え、お前すごいな。あ、それで積極的がいき過ぎて。」


山本「盗んでねーからな!でも、まさか俺もトンちゃんがきっかけであの二人が結婚するとは思わなかったよ。」


半田「トンちゃん婚ってことか。」


山本「韓国語みたいに言うなよ。」


半田「え、放課後トンちゃんと遊ぶ時って武田はいなかったの?」


山本「いたよ。スッゲー邪魔だったよ。でもさ、トンちゃんと遊ぶカナちゃんを見てるだけで幸せだったよ。」


半田「すげーなお前。」


山本「でもよ、三人とトンちゃんで遊んでんだけどさ、毎回後半は二人で盛り上がっちゃって、俺もう空気みたいになんだよ。」


半田「なんか可哀想だな。」


山本「だろ!本当キツかったよ。」


半田「え、でもますますお前が犯人っぽいけどな。」


山本「え、何でだよ」


半田「だってそうだろ。好きな女子がトンちゃんきっかけで他の男子に取られそうになってんだぜ。そりゃ、とんちゃんがいなければって考えたくもなるよ。」


山本「いや、マジで俺じゃないのよ!俺も好きな女子取られたくらいでトンちゃん盗まねーよ!」


半田「本当か〜?」


山本「本当だって!信じてくれよ!あ、そうだ、俺トンちゃんが盗まれたとされる日、中庭行ってないわ。」


半田「え?お前嘘きついって。」


山本「いや、本当。俺だってその日カナちゃんに告白したもん。」


半田「は、そんな大事な日普通覚えてるだろ。今更になって思い出されてもな。」


山本「いや、もうショックすぎて記憶から消してたんだよ。うわ〜思い出しちゃった〜。」

半田「どうやってフラれたんだよ。」


山本「まだフラれたか分かんねーだろ。」


半田「ショックで記憶から消してんだからフラれてんだろ!何だお前。」


山本「カナちゃん、トンちゃんと遊んでる時しきりに「カナも子豚さん飼いたいなー」って言ってたんだよ。」


半田「うん、それで?


山本「だからよ、豚の剥製あげたんだよ。」


半田「何だよ、それ気持ちわりーな、普通貯金箱とかだろ、何で剥製何だよ嬉しくないだろ。」


山本「いや、リアルの方がいいだろ。」


半田「良くねーよ、気持ちわりーな。」


山本「でもよ、そしたら、「惜しかったね」って言われたんだよ。」


半田「え、何それ。まず剥製に驚けよ。」


山本「それは別にいいだろ。そうだわ、俺だからトンちゃんがいなくなったって先生に言われた時、トンちゃんがいなくなった事よりも、カナちゃんにフラれた方がショックだったもん。」


半田「じゃあ、ますます分かんねーじゃん。」

山本「あ、それでその日、俺清水にドンマイって言われたんだった。カナちゃんに告白したことなんか誰にも言ってねーのに、何故か清水は知ってたんだよな。」


半田「カナちゃんが言ったんじゃない?」


山本「いや、あの子はそんな子じゃないよ。」


半田「いや、でも男子から告白されて惜しかったねなんていう奴だぜ。サイテーな奴だよ。」

山本「いや、そんなことはない!」


半田「いや、お前そんなんだからダメなんだよ。フラれてる上に惜しかったねだぜ。」


山本「でも、清水が何で知ってんだよ。」


半田「それは、カナちゃんが武田に言って、武田が一番仲良かった清水に言ったんだろ。」


山本「くっそ。最悪じゃねーか。」


半田「待って、武田とカナちゃんってあの時期辺りからしょっちゅう二人でいたよな。」


山本「そうだよ、思い出したくもない。俺がフラれたと知って自由にいちゃつきやがって。」


半田「でもさ、カナちゃんの惜しかったって発言からするとさ、お前のことも気になってはいたんだよ。」


山本「あ〜、まあ確かに。」


半田「でも、武田に取られた。」


山本「もう何回も言うなよ。」


半田「あ!カナちゃんはさ、積極的な男子が好きなんだろ!?」


山本「そうだよ。」


半田「さっきも言ったけどよ。その積極的がいき過ぎて武田が盗んだんじゃねーか?」


山本「え?」


半田「カナちゃんはトンちゃんと遊ぶフリをしてお前らを試してたんだ。」


山本「武田はトンんちゃんなんか盗まなくても俺になんか勝てるだろ。後半空気だったんだから。」

半田「いや、だったらもっと早くお前の事を無視してるはずだよ。」

山本「まあ、確かに。」


半田「だから、何か一人に絞る決定的な出来事があったはずなんだ。」


山本「あ〜。」


半田「それがトンちゃん窃盗。そしてお前の告白だ。」


山本「どういう事?」


半田「武田はお前が告白する前ちょっと前に、トンちゃんを盗んでカナちゃんに告白したんだとしたらどうする?」


山本「あ!そういう事!?」


半田「豚の剥製のお前、実際にトンちゃんを盗んでまで告白した武田。小学生の積極性の観点から見たら武田を選んでしまうんだろうな。」


山本「それで「惜しかったね」か。てことはうわー俺がトンちゃん盗んでればなー。」


半田「何でそうなるんだよ。」


山本「いやだって、そうしてれば俺カナちゃんと結婚できたかもしれないだろ!」


半田「いや、やめとけって男子を試して弄ぶような奴だぞ。」


山本「まあ、確かにな。それにもう武田とは腐れ縁だもんな。盛大に祝ってやるか。」


半田「そうだよ。」


山本「ん?でも待てよ。じゃあ何で武田はトンちゃんを中庭に戻さなかったんだ?」


半田「え?」


山本「だってよ、カナちゃんに告白する時だけ盗めばいいじゃんか。」


半田「まあ、それは小学生だからな。」


山本「ま、そっか。そうだな。」



山本に電話



山本「あ、もしもし。」


半田「誰?」


山本「清水、清水。」


半田「うわ、めっちゃタイムリーじゃん。そっか清水も結婚式くんのか。」


山本「どうした?あ、うんうん任せとけよ。当日はバッチリ決めるから。あ、そういえばさ、俺らが小五の時飼ってたトンちゃんって豚いただろ?」


半田「いや、話すなって。」


山本「いいじゃん、いいじゃん。ちょっと言いたい事あんだよ。

  清水さ、武田と一番仲良かったじゃん?だから武田がトンちゃん盗んでカナちゃんに告白したの知ってただろ。それで逆にフラれた俺にドンマイとか言ったんだろ!え、あ、そうなの!」


半田「どうした?」


山本「武田盗んでないって。それで俺にドンマイって言ったのは俺が毎回中庭に行ってトンちゃんと遊んでたから、気使ってくれたんだって!」


半田「いや、そんなの信じれるか?」


山本「確かに。

  おい!清水!嘘つくなよ!俺は騙されねーぞ。トンちゃん窃盗事件の犯人は武田だろ!え、えーーーーーー!」

半田「うるせーな、どうしたんだよ。」


山本「トンちゃん盗んだの、清水だって。」


半田「は、意味分かんねーんだけど。じゃあ何で盗んだんだよ。」


山本「確かに。

  おい!本当にお前だったら何で盗んだんだよ!」



清水「盗んだ理由は心に秘密を持つため。何故か分からないけど、気分がいいんだ。」

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