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Automne〜幸せな未来へ

季節の中で秋が一番好きだ。ショパンの甘く捉え所のない軽やかな、それでいてけして柔らかなだけではないそのピアノの響きも、秋が深まるこんな夕暮れによく似合う。
まるで少し湿り気を帯びた音の枯れ葉がひらりひらりと私の上に降ってくるようだと綾は思う。
そうしてそれはいつしか胸の奥の奥の方に隠したものにまで届き、優しく甘い痛みを伴って綾の内側に響いてゆく。

「人は何のために生きるんだろう」

そう正道に尋ねられた時に、あの時綾は答える事が出来なかった。

今ならば何と答えるのだろう。
きっとどこを探しても正解も間違いもないその質問の答えを。

「知らない自分を知るため、かもね」
ウインカーのカチカチという音に合わせてハンドルをきりながら、一人そう呟いてみる。

すると、誰かの気配がしたので後ろを振り向くと、正道の代わりに過去の綾がいて、今の綾に微笑みながら話しかけてきた。
「確かに、今のあなたは、過去でこれまでのあなたとは全く違う選択をした」
過去の綾がそういうと、今度は未来の綾が目の前にいて、今の綾にこういった。

「素晴らしい選択だったわ、そのお陰で私は本当に心から愛する人と結ばれ最高の愛と幸せと豊かさに満たされている」

それは夢を見たわけでもなく、幻想でもなく、私は確かに彼女たちと会話をした。

後少しで日が暮れてしまう紫とオレンジの空の下を車で走りながら、ラジオから流れてくるショパンが起こす魔法の中で、確かに過去の綾と今の綾と、そして未来の綾は繋がったのだ。

知らない自分を知るために。。生きるために。


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