Automne〜幸せな未来へ
季節の中で秋が一番好きだ。ショパンの甘く捉え所のない軽やかな、それでいてけして柔らかなだけではないそのピアノの響きも、秋が深まるこんな夕暮れによく似合う。
まるで少し湿り気を帯びた音の枯れ葉がひらりひらりと私の上に降ってくるようだと綾は思う。
そうしてそれはいつしか胸の奥の奥の方に隠したものにまで届き、優しく甘い痛みを伴って綾の内側に響いてゆく。
「人は何のために生きるんだろう」
そう正道に尋ねられた時に、あの時綾は答える事が出来なかった。
今ならば何と答えるのだろう。