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一人百物語 ~ほんとにあった私と私の周りの怖い話~むっつめ

心霊スポットに行ったことはありますか?
私も何か所か行ったことがあるのですが、その中でのド定番、トンネルでの体験を書きましょう。

私の趣味の一つにドライブがありまして。
そもそも運転が好きなので、誰かと一緒の遠出ももちろん楽しいです。
ですが、好きな曲をかけながら車内カラオケを一人で楽しむドライブを至福のひと時としているのですが、そんな賑やかにしている最中にも、怪異は起こるのです。

それはまだ10代のころ。
免許取り立てだった私は、格段に広くなった行動範囲がうれしく、休みごとにあちこちにドライブをしていました。
今と違ってガソリン代もお財布にやさしいものだったので、新社会人の私が遠慮なくできるレジャーだったのです。

その日は翌日に友人と遊ぶ約束をしていた前日。
仕事終わりに無性に走りたくなった私は、4時間程度で帰れるドライブコースを計画しました。
帰宅は明け方になることが分かっていても、その日は我慢ができませんでした。
何度となく通った道で、昼間ならば景色を楽しみながらの山道です。
トンネルをいくつも通る比較的見通しの良い道で、カーブは多くとも極端にスピードを出さない限り安全に走行ができます。
そんな道なせいでしょうか。
事故が頻繁に起きるルートでもあり、時には夜昼となくやんちゃな運転の人がいることも事実でした。
私はスピードを出したいわけではないドライバーなので、そんな車がバックミラーに映ると、速やかに脇に車を寄せてウインカーを左にあげて「お先にどうぞ」をするのが常でした。

走り出して30分を過ぎたころ。
ルームミラーを眩しい光が差しました。
しかもかなりのスピードで近づいてきます。
ドライバーならわかるかもしれませんが、夜に後ろからハイビームで照らされると、かなり眩しくて運転の支障になります。
気を遣う方なら先頭車や対向車に近づく際はハイビームを通常に切り替えるのですが、遠慮なく照らしてくる方も多いのです。
いつものように私は左のウインカーを出し、左に寄りつつスピードをゆっくり落としました。
「お先にどうぞ」のサインです。
もう少し先でトンネルに差し掛かることを知っていたので、この場所を逃すとトンネルを抜けるまで追い越しは難しいのです。
トンネル内で追い越しを強行されるのも怖いので、私はぐっとスピードを落としました。
後続車はスピードを落とす気配もなく右側を突っ切っていきました。
夜ですし、街灯のないところでしたから、黒っぽいバンだとしかわかりません。
バンは瞬く間に見えなくなりました。

私は運転を再開。
間もなくトンネルに入りましたが、先に行ったはずのバンは跡形もありません。
あれほどのスピードですから、それもそうかと私は歌を口ずさみ始めました。

さらに10分ほどでしょうか。
また後ろからハイビームです。
またかと思いつつ、先ほどと同じように「お先にどうぞ」をします。
やはりトンネルの手前の位置でしたから、やり過ごすのが安全です。
今度の車もすごい勢いで右を駆け抜けます。
偶然にも似たようなバンでした。
この型のバンはこの時流行っていた型でしたし、色は濃いめが流行りでした。
夜なら黒も紺も緑もダークグレーも黒に見えます。
私は特に気もせず、運転を再開しました。
その時はまだ。

さらに15分ほどでしょうか。
後ろからのハイビームが目を射ました。
週末でもない夜中に三台目。
さすがに私は違和感を覚えました。
私はさっきより早めに左によって、しっかり停車してウィンカーを出しました。
車は一瞬で駆け抜けます。
やはり黒っぽいバンです。
違和感はありつつも、去っていくテールランプは先のカーブで見えなくなるのです。
その先には長いトンネルがあります。

言い知れない不安感はありながらも、私は車を発進させたのです。

トンネルに入ると少し上り坂になってから、緩やかな下り坂になります。
そこで入り口は完全にルームミラーから消えます。
刹那。
後ろからのハイビーム。
私はごくりと喉を鳴らしました。

思い出してしまったのです。
このトンネルの逸話を。
このトンネルをくぐるとき、黒い車に追いかけられて事故を起こすというものでした。
その体験をした人は人によって起きたことが違うようで、足をつかまれた、トンネルのライトが全部消えた、10分以上追いかけられたなど、様々です。
そのどれも合うのはご免です。
「冗談じゃない…」
私はひとり呟くと、心持ちアクセルを踏み込みました。
とにかく早くこのトンネルを抜けなくてはいけないと思ったのです。

トンネルは1キロメートルちょっと。
2分もあれば抜けるはずです。
ライトは徐々に近づいてきます。
トンネル内を、私の車以外のエンジン音だけが追いついてきます。
反響するエンジン音が、私の車を包み込むように不気味に響きます。
ルームミラーはライトの光でいっぱいになり、私は視線をずらして眩しさをよけながら、長い2分を耐えました。

先が大きくカーブします。
カーブの終わりが出口です。

カーブを曲がり、ライトがルームミラーから左に消えます。
そして出口。
出口の先は直線です。
私はルームミラーに目を向けました。
「…いない…?」
直道をしばらく走りましたが、後ろのライトは一向に追いつきません。
途中に停車できるような場所はなく、追いついてこないことも不自然なのです。
それはつまり、あの車が普通の車ではない証明になってしまうのですから。
「怖かったぁ…」
緊張しすぎて耳に入ってこなかったロックのリズムが、やっと聞こえてきます。
私は長く息を吐いて、歌を口ずさもうとふっと息を吸いました。
ちょうど大きなカーブに差し掛かったところです。

その時。

白い人影が車道の中央に。

…轢いた、と思いました。

私は知らず、ハンドルをぐっと握り、全力でブレーキを踏みつけました。
全身にぶわっと汗が吹き出します。

しかし、何の衝撃もないのです。
ずっと目を見開いていた私には、影がぶつかる直前に消えたようにも見えました。
停車した車をのろのろと降り、念のため車の周りを確かめます。
やはり何もありません。
ただ静まり返る夜の道があるだけです。
もう無理だ。
私は慌てて車に乗り込んで、急いで発進しました。
もうドライブを楽しむ気持ちにはなれません。
私は近道を通って家路につきました。
だって、その先にはもう一か所、トンネルがあるのですから。



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