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一人百物語 ~ほんとにあった私と私の周りの怖い話~みっつめ

こっくりさん、やったことありますか?
私はあります。

私が小学生ぐらいのころ、ホラーがブームになっておりまして、特に少女漫画の世界では随分流行っていたのです。
少女漫画のかわいらしい絵柄で怖い話を紡ぐマンガが多く出版され、ホラー専門の少女漫画雑誌や、怖い話を特集した少女向け雑誌も多く発刊されていました。
私は小さなころから怖い話や不思議な話に興味があり、実際に体験も頻繁にしていたこともあり、夢中でそれらを読んでいました。
テレビでも頻繁に心霊を扱う番組が放送されており、怖いと思いつつも欠かさず見ていたものです。

そんな雑誌の一つに、雑誌の付録としてこっくりさんの用紙が付いてきていたのです。
さらにはこっくりさんのやり方が詳しく説明されており、末尾はこんな文句で締められておりました。

ー危険なので、面白半分でやらないようにしましょうー

「まじめにやればいいんだろ?」
雑誌はこっそり学校に持っていき、何人かで回し読みしていたのですが、一番そういった不思議なことに否定的な男の子がそういったのです。
「やろうぜ、こっくりさん」
その場にいた男女6人がわっと盛り上がりました。
正直私は気が進みませんでした。
この雑誌を読む前から、こっくりさんの存在は知っていました。
それが危険なものであるという認識があったので、余計にいい感じはしません。
ですが同時に好奇心も頭をもたげるのです。
「俺、十円玉あるし」
なぜ彼が十円玉を持っていたのかは知りませんが、こっくりさんに必要な道具、用紙と十円玉がそろっています。
時は放課後。
今日は職員会議で、しばらく先生に見つからないだろう時間が、あと1時間ほどあるのです。
状況が整っていました。
「じゃあ、やる?」
私はそうつぶやいていました。

窓はあれど、日焼けを避けるために紙で窓を覆った物品庫が、場所に選ばれました。
紙類を収納した狭い部屋で、頻繁に出入りする場所ではありません。
薄暗い部屋には椅子も机もないので、私たちは床に紙を置き、這いつくばるようにして紙を囲みました。
狭い部屋に入ったのは私を入れて6人。
いざやるとなると怖気づいたのか、女の子二人が急に辞退をしました。
結果、言い出しっぺの男の子と私、さらに男の子と女の子一人ずつの4人で始めることになったのです。

4本の人差し指が十円玉に乗ります。
ーこっくりさん、おこしくださいー
ほどなく、十円玉がゆっくりと動き出します。
「あや、動かしてるだろー」
否定派の男の子が笑いながら言いました。
私ではありませんでした。
でも、誰かが動かしている感触はあるのです。
十円玉自体が動いているというよりも、誰かが指先で引っ張っていると、感覚で分かるのです。

「ズルするなよ」
「何もしてないよ」
口々に言いあいました。
けれど、誰も紙から目を離せません。
私が感じていた感覚を、みんなも感じていたのでしょうか。
でも認めてしまうのは怖すぎるのです。

「なんか聞こうぜ」
「ねえ、止めない?」
否定派の男の子の言葉と私の言葉が重なりました。
「いいから」
私たちはそこでようやく顔を見合わせました。
否定派の男の子の顔は心なしこわばっています。
あとの二人の顔には不安が浮かんでいました。
「やっぱり…」
私が止めるのをさえぎって、否定派の男の子が質問を始めてしまいました。
その場にいる人の好きな人を聞いたり、テストの点数を聞いたりと、内容は他愛のないものでしたが、そのたび十円玉は動きました。
ですがそれは明らかに否定派の男の子が動かしたものだとわかりました。
少し苛立ちもありましたが、同時にほっとしてもいました。
何もないならそれでいい。
そう思ったからです。

ですが、否定派の男の子は、絶対に聞いてはいけない質問をしてしまったのです。
「じゃあさ、誰が最初に死にますかーっ」
「やめなよ!」
私が止める声と十円玉が動き出したのは同時でした。
今までのろのろと動いていた十円玉が、ぐっと力強く指を引いたのです。
女の子が小さく悲鳴を上げました。
見ていた子たちも一歩後ろに下がります。
「あや、やめろよ!」
「私じゃない…」
「やめろって!」
動く十円玉を、否定派の男の子が止めようと力を入れているのが分かりました。
それは私もだったのです。
だって、十円玉が向かおうとしている方向には、『し』があって、絶対に行かせてはいけない気がしたのです。
私は逆の方向に力を入れ続けながら、無意識にずっと心で叫び続けていました。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいもうしないからかえってくださいかえってくださいかえってくださいかえってくださいごめんなさいごめんなさいかえってくださいかえってくださいごめんなさいかえってくださいかえってくださいかえってくださいごめん

と、私の指が急に、はじかれたように十円玉から離れました。
つられたように他の3人も十円玉から指を離し、紙からも距離を取りました。
しん、と部屋が静まり返りました。
「なーんだ」
否定派の男の子が上ずった声で私を指差しました。
「あやがズルしただけじゃねえか」
私は動かしていませんでした。
動いた十円玉を止めようとしたのです。
否定派の男の子は、私が犯人だと責め続けていました。
見ていた女の子たちもそれに加担して、私はうそつきと断罪されましたが、私は紙から目を離せずにいました。
私は動かしていないのです。

私は、動かしていないのです。


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綾子
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