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コロナ時代・新たなる始まり 第2話「経験と直感」

✴︎第1話〜6話までは2020年に書いたものを2022年に編集し直しています✴︎


2020年3月になると、政府は止まりはじめた経済活動を懸念して、無担保無金利の事業者用の融資を始めていた。ワタシは取り急ぎ事務所とHopiショップを存続する為、一日で全ての書類を整え手続きを行うことにした。

こうした手続きは出来る限り早くした方が良い。これまでの経験上、遅くなればなるほど混み合って日程が伸びていく。この融資は始まったばかりだったこともあり、待ち時間もなくスムーズに事は運び、3月末には取り敢えずの繋ぎ融資が銀行口座に振り込まれた。

ワタシはそれで2〜3ヶ月耐え忍んで、時が過ぎゆくのを待ち、その間に長年構想してきたファンタジー小説を書こうと思っていた。しかし、連日のニュースに翻弄され、パソコンの前に座ってもどうにもこうにも気持ちが進まない。キーボードを打ち込んでは消し…という無駄な作業ばかりを続けていた頃、初めて緊急事態宣言が発令された。

店だけではなく、事務所も閉めることになり、スタッフミーティングはzoomのみ。感染拡大は世界規模となり、特にアメリカでの深刻なニュースが連日報道されていた。ホピの友人たちからも、村々で感染が急激に広がっていると連絡が来る様になり、ワタシは当面彼の地へ行くことは出来なくなったと悟った。

全ての企画という企画が中止となった。先の見通しは全く立たなかったが、せめて、本来なら3月下旬に開催予定だった、あさい享子の個展を秋には行いたいと思っていた。
あさい享子は、弊社に20年勤務しているスタッフであるが、同時に絵画やアート文字アーティストとしても活躍しており、2018年には日本選抜美術家協会が主催する、国際美術大賞展で受賞もしている。

しかし3月に借りる予定だったギャラリーに連絡をしてみるも、秋から冬にかけて日程は既に全て埋まっていた。他のギャラリーも探したが、何処も良い返信はもらえなかった。その時、ふとワタシの頭に、自分たちでギャラリーを運営してはどうか?という思いがよぎった。

コロナの時期、表現者たちは「場」そのものを失った。しかし、何かしらこの期間中作っている表現者は沢山いるだろう。ならば、表現者たちの作品を表に出せる場を作れば良いではないか。そうだ!借りたお金でギャラリーを作ろう!

そう思ったのは、2020年ゴールデンウィークが明けて直ぐのことだ。まだ緊急事態宣言は出たままだったが、
思い始めたら、直ぐに動くのがワタシなのだ。

ネットで検索をすると、千駄木駅の近くに手頃な家賃の物件が出てきた。事務所から歩いても10分程度。自転車なら5分とかからない好立地だ。運良く知り合いの不動産屋でもその物件を取り扱っていたこともあり、直ぐに連絡を取り、案内してもらった。

そこはネットで見たものよりも綺麗な物件だった。ただギャラリーにするにはやや狭く、更には床が斜めになっているような違和感もあった。聞くと、もともと大型ランドクルーザーが入る駐車場として作られたスペースだったという。車が入りやすいよう、床に傾斜がついているということだった。

ただ立地も家賃も申し分ない。こんな物件はなかなか出てこないので、あっと言う間に誰かが借りることは間違いないだろう。でも、気になる狭さと斜めの床。どうしたものかと数日考え、結局ワタシはその場所を借りることにした。

ところが契約した日、もう一度その場所に行き、まじまじと物件を見ていた日、ワタシの目には、そこがギャラリーではなく突然、ヨーロッパの街角にあるような、小さなチョコレート屋に見えたのだ。
それは、あまりにも唐突なことで、自分でも驚いたのだが、見えてしまったので仕方がない。まさに、ホピショップのスペースを最初に見た時に近い状態だった。

そして、その場で一人その何もない空間を見ながら、様々なことを思った。

コロナ禍において、感染予防の最後の切り札が免疫力であることは知られているが、ポリフェノール豊富なカカオは、まさに免疫力をあげる宝のような食べ物ではないか。今の時代だからこそ、絶対に良質なチョコレートは求められている!

そうだ!見えた通りのチョコレート屋にしたら良いのだ。

そう書くと、唐突に脈絡もなく決めたように思えるかもしれない。しかし、私がチョコレート屋を開こうと思ったのは、そうした思いだけではない。実はこれまでの仕事の沿線上に、チョコレートというキーワードが見え隠れはしていたのだ。

続く…。

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