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コロナ時代・新たなる始まり 第10話「女神たち」


絵と文字のアーティストでもある、あさい享子がオフィスTENにやって来たのは、今からちょうど20年前の2002年のことだった。

当時、大学卒業後しばらくタイの山岳民族の子どもたちが通う学校で絵を教えていた彼女は、ある時、ハタと自分はどこの何ものなのかと思ったのだそう。

山で貧しく暮らしている子どもたちをサポートしに行ったつもりが、彼らは自分たちが何処の部族であるとか、何者なのかということを知っている。真の豊かさを持つ子どもたちに自分は何をサポートしようとしていたのか。日本のことも、自分のこともほとんど知らないままではいけない。だから帰ろうと思い、日本に戻り、たまたまネットで興味深いイベントを知り、その企画・主催者であるワタシに興味を持ったのだとか。

若干23歳。真っ赤なバックパック一つ背負ってやって来た彼女は、そのままワタシの事務所のスタッフとなり、以後、様々なことを共にしてきた。
ホピ族の元へも、何度彼女と一緒に行ったかわからない。彼女は日本での運転はほぼしない。しかしアメリカでは、まるでベテランドライバーの如く、迷いのない素晴らしい運転をするのである。
熊野の映像作品を一年がかりで撮っていた時も、屋久島や白神山地やその他、様々な場所へ出張していた時も、最初の10年はほぼ一緒に動いていた。

勤務し続けたこの20年の間に最良のパートナーと出会い、3人の子どもたちの母となった彼女は、以前のように共に動きまわる頻度は減った。しかし、それでもTENのスタッフとして共に動いてくれることがありがたい。

彼女の絵と文字のただならぬ才能は、当初から気が付いていた。

イベントで何気なくPOPを書いてもらった文字は、まさにアートだった。

絵画が最初に売れたのは、2006年東京芸術劇場で企画開催した「いのちの賛美展」に展示してからのこと。当初、販売する予定も無かったが、来場者から購入したいと連絡がきたのだ。また画商が関わりたいと申し出があったり…。その後も個展を展開するたび、彼女の絵画は人気が出るようになった。

そして2018年、日本選抜美術家協会主催による第44回 国際美術大賞展で、評論家賞を受賞。
彼女は確実に実力をつけている。

そんなあさい享子の個展を久しぶりに開催しようと2020年3月に準備していたが、コロナ禍でギャラリーが使えなくなり、その後もギャラリーの見通しがつかなくなってしまった。それなら自分たちでギャラリーを作ろうと奮闘して作ったのが、これまでも書いてきた『天’s SPACE』だ。

2020年10月から12月まで、僅か3ヶ月。期間限定のギャラリーではあったが、それぞれ意味のある企画展になったのではないかと思う。

そして、その最後を飾ったのが、2020年12月4日から13日まで開催した、あさい享子・絵画展
『出でよ命!奮い起こせ、魂を!』だった。

3月開催予定用に準備した絵画に加え、コロナ禍になり新たに描いた作品も沢山できあがっており、

『慈母観音』は、あさい享子らしい、まさに慈愛に満ち満ちた作品だ。

また、シリーズ『水風』は、これまで動のエネルギーを出していた、あさい享子が静のエネルギーを発しているたような、まさに新境地ともいえる作品群シリーズ発表の場ともなった。

彼女の満面の笑は最高だ。

ワタシは、あさい享子の絵画展期間中にトークショーと、極上ライブも企画した。

あさいとワタシ、初となる「2人のトークショー」。テーマは「バカの底力」。まさにそれは私たち自身を物語っていた。こんなご時世、頭の良い人はきっとじっとしていることだろ。でも私たちはバカだから、底力を発揮して、チョコレート屋やギャラリーも作ってしまっている。でも後悔はしていない。こんな人生、上等!くらいに思っている、どうしようもないバカな2人なのだ。

そんな、バカの底力の話を聴きに来てくださる方々もいらしてくださって…本当にありがたい限りだった。

そして、極上ライブ。
これは、ワタシ自身が懇願していたライブと言ってもいいだろう。
音楽も演劇も全く生で触れることが出来なかった一年。叶うことなら聴きたい、心底そう思って2人の表現者にお願いし、それぞれ承諾していただいた企画だ。
まずは12月6日に開催した、シンガー竹中あこさんの
「生まれ変わる地球とワタシ』。

あこさんのことを紹介するのに一番適した、その時のライブへの呼びかけ文を綴ろう。

*****
竹中あこ。彼女の歌声を一度でも聴いたことがある人は
幸せものだと思う。独特のヴォイスと様々な言語での歌
声は、人の魂までをも揺さぶるチカラがある。
しかし積極的なライブ活動を行わないため、生歌声を聴くことは稀だ。

そもそも彼女は、異色の経歴を持つシンガーソングライ
ターである。慶應義塾大学理工学部物理学科を卒業後、
博報堂にコピーライター職として勤務。その間、朝日広
告賞、毎日広告賞などを受賞するが、それらの経歴に囚
われることなく、96年渡米。ニューヨークなどで歌を学
び、98年には「アメリカンソングライター50」に選出される。そして2014年自身のオリジナルアルバムが第57回グラミー賞のワールドミュージック部門及びニューアーティスト部門でノミネートという偉業を成している。

しかし、そんな華やかな経歴にも囚われることなく自然
と共に歌うことの心地よさを選ぶのが竹中あこなのだ。
コロナにより、地球レベルで大変革がなされている今。
全てのものとともに新たなる自分へ生まれ変わる時がや
って来ている。

竹中あこの歌声は、そんな再生の祝福となるだろう。

今回のライブは「天'sSPACE」で催される、あさい享子の絵画展『出でよ命!奮い起こせ魂を!』の会場内で12名限定という極小ライブだ。

やはり、竹中あこの歌声が聴けるのは稀なのだ。
*****

この日のライブには、石川泰さん、大森俊之さんも加わり、最高のライブとなった。こんな小さなスペースで、あこさんの歌のシャワーを浴びることが出来たことが幸運そのものだ。

そして翌週、12月12日に開催したのが、女優・柳田ありすさんによる朗読劇『父と暮らせば』である。

命の危機を感じながら生きていかなければならない今だから…観るべき舞台がある。そんな思いから、ありすさんに朗読劇『父と暮らせば』を演じて欲しいと、ワタシは懇願した。

原爆で愛する人々を皆失い、一人生き残ったという負い目を持つ娘。せっかく芽生えた恋のときめきからも身を引こうとする娘を励ます父。しかし実は父はもうこの世の人ではない。ただ父の願いは、自分の分まで幸せに生きて欲しいということだけ。

父と娘の胸の内を、一人芝居の朗読劇で演じきる柳田ありすという女優は、やはり凄いと思った。

彼女は、ニューヨークアクターズスタジオのメソッド演技を学んでいる。現在、アクティングスクールの演技指導を行う他、女優として、映画、舞台公演にて活動中。ハリウッド映画「終戦のエンペラー」「G iri Haji」など出演する他、舞台は「父と暮せば」(井上ひさし作)等多数。またライフワークとして、20年来ふじのキッズシアターに於いて、子どもたちの演技指導にも携わり、映画『藍色少年少女』ではプロデューサー 並びに出演もしている。

あこさんも、ありすさんも、本物中の本物。
あさい享子の絵画の前で、お二人にライブ・パフォーマンスを行ってもらった後には、清浄な空気が満ち満ちていたようにワタシには感じた。

こうして、『天’s SPACE』は期間限定での目的を終えて次の年を迎えようとしていた。

…続く

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