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衛星システム技術の裏側note(第2回)

こんにちは。再びCTOの宮下です。私の記事は「衛星システム技術の裏側note」と題して、衛星システム・運用システム・衛星画像データ処理システムなどの『技術の裏側』に関して紹介しています。第2回の今回は「衛星システム全体の構成」(特に衛星パート)に関して紹介したいと思います。また各機能の開発にどのような技術ドメインを持ったエンジニアが担当しているかを紹介します。

一般的な衛星システム全体のアーキテクチャ図を示します。簡易的な内容にとどめており、もっといろいろな機能や工夫などもありますが、一般的な構成ということでご理解ください。

一般的な衛星システムのアーキテクチャ

技術の裏側note第2回は「衛星パート」に絞って説明をしてゆきます。次回第3回では地上パートを説明します。

[1.Satellite 衛星パート]
[1.1] 搭載計算機
 衛星に搭載される計算機システム(CPU, メモリ, ストレージなど)です。衛星を動かす各種計算を行っている衛星の頭脳ともいえるコンピュータです。衛星の位置・姿勢を決定する計算、衛星の姿勢制御、搭載機器・ミッション機器の制御、地上との通信・データのやり取りなどノンストップで実行しています。近年、半導体の進化により、小型衛星でもパワフルな計算能力が使えることも小型衛星の性能底上げに起因しています。ただし地上のコンピュータボードをそのまま軌道投入しても宇宙放射線ですぐに壊れてしまうことが多く、宇宙放射線をどう対策するかが衛星メーカーの腕の見せ所です。
 衛星の姿勢決定や制御など姿勢制御アルゴリズムを考える制御系エンジニア、計算機ボードまわりを開発する電気・電子エンジニア、堅固で安定性の高いプログラムを開発するソフトウェアエンジニアなどが搭載計算機開発で活躍しています。

[1.2] 電源系(電源回路・二次電池・太陽電池セル)
 衛星の動力源は太陽光を太陽電池セルで電力に変換することで得ています。衛星は地球を周回(アクセルスペースがよく打ち上げる低軌道衛星は1日約15周地球を回っている)するため、太陽が当たる日照時と、地球の陰で電力が発生できない日陰時(蝕時)があります。日陰時でも衛星は動作させたいことが多いため、一般的には充電ができる二次電池を搭載し、日陰時を動作するのに必要な電力を日照時に充電して蓄えておきます。衛星搭載の電源回路は、太陽電池セルを最大限に発生させるような発電制御や、充放電制御、各内部機器に電力を分配する機能などを持っています。1日15回も充放電を繰り返しますのでバッテリーの劣化も早く、衛星のミッション期間中にどのようにその劣化を見積もるかなど、電源系の設計は衛星の命そのものであるため非常に神経を使います。(他の系もそうですが)
 電源系の開発には、いろいろな業界から来たパワーエレクトロニクス系の電気・電子エンジニアが活躍しています。超小型衛星は大型衛星に比べてどうしても発生電力が少ないため、1mW単位で無駄が少ない高効率な電源回路設計に知恵を絞っています。

[1.3] 姿勢決定・制御系(位置・姿勢決定センサ・姿勢制御器)
 多くの衛星はミッションを実行するために、自ら衛星を任意の方向に制御することができます。例えば地球観測衛星の場合は、望遠鏡(カメラレンズ)を撮影したい方向に向ける必要があるため姿勢制御が必要です。しかし時速28000kmの速度で移動し、地上からの高度数百kmからピンポイントで撮影するためには非常に高精度な姿勢制御と安定度が求められます。姿勢制御をするにも、まずは自分が今どちらを向いているかを把握する必要(姿勢決定)があります。その為、衛星には姿勢を決定するいろいろなセンサ(恒星センサ、太陽センサ、地磁気センサ、GNSS受信機など)を搭載し、搭載計算機内で位置・姿勢をリアルタイムで決定しています。姿勢が決定されたあと、ミッション実行時に必要な姿勢制御を、姿勢制御器(リアクションホイール、磁気トルカ、場合によってはスラスタなど)を用いて姿勢を変更制御します。各種センサや姿勢制御器がどういう仕組みになっているかは将来の回で説明しますね。担当エンジニアに書いてもらおうかな。
 姿勢決定・制御系には、姿勢決定・制御アルゴリズムを考えるフィルタ系・制御系エンジニアや、各種センサなどを開発するセンサ系の電気・電子エンジニアなどが活躍しています。またセンサ系は正しく宇宙で動作させるためにも各種キャリブレーションが非常に重要であり、そういったキャリブレーション手法にも多くの開発項目があります。遠くに(宇宙に)いる衛星を見えないところでびしっと衛星を制御する系ということで非常に難しく、そして人気のある要素ですね。アポロ13の映画などでも、GNC(Guidance Navigation and Control)なんて呼ばれたりしていますよね。アクセルスペースでも三度の飯よりも数学が好きなエンジニアが多い印象です(宮下の勝手な私見)。

[1.4] 推進系
 下図のアニメーションの様にAxelGlobeでは現在5機のGRUSを同一軌道面に72度の均等配置で整列させコンステレーションを組んでいます。そういった軌道上での衛星位置・軌道高度を調整する機能が推進系です。2018年に打ち上げたGRUS-1A(初号機)に対して、2021年に打上したGRUS-1B, 1C, 1D, 1Eの4機はほぼ同じ場所にロケットから切り離されました。5機はそれぞれの推進系を適切に使い軌道の前後関係をずらし(フェージングなんて言ったりします)、綺麗に72度配置に入れました。また一度入っても軌道は少しずつずれてゆきますから定期的に調整制御しています。推進系の方式も化学推進や電気推進などいろいろあります。ミッションが終わった衛星は軌道高度を低下させる方向に推進系を吹き切って電源を落とすこともあります。また推進系を使って衛星の姿勢制御を行う場合も衛星によってはあります。
 推進系は、スラスタやタンクの開発に機械系エンジニア、スラスタの制御に電気・電子エンジニア、そして推進系をどのように動作させるかを考えている軌道制御のエンジニアが活躍しています。限りある推進薬を、どのように使えば無駄なく想定通りの軌道に入るのか?など、軌道力学と推進系の実データを分析して考えています。社内のこの推進系に関する指針会議は、ビジネス(AxelGlobe)に必要な配置に衛星をコントロールするという感じでめちゃくちゃ面白いです。

2021年5月現在のAxelGlobeコンステレーション(5機体制)

[1.5] 熱・構造系および製造系
 熱・構造系は、その名の通り衛星の機械的な構造設計や熱設計を担っている系となります。ロケットの打ち上げ振動・衝撃に耐えられる機械設計から、衛星内部機器が動作する快適な温度を軌道上で保つための熱の制御設計をします。設計が終わりましたら衛星の組立・環境試験の実施・ロケット打ち上げ場での射場作業などの製造系の業務があります。
 ロケットの打ち上げ振動に耐えるためには、多くの金属を使い厚く・固くしていくのが一つのアプローチですが、それでは衛星の質量がどんどん重くなってしまいます。衛星の打ち上げ費は衛星質量で決まる部分もあるため、ロケットの打ち上げ振動にギリギリクリアし、できるだけ軽量な構造が理想的な設計とも言えます。打ち上げ後には大きな力は加わらないので、ロケット打ち上げの為だけに構造の強度は必要ともいえるため、超小型衛星の機械設計はまさにエンジニアの腕の見せ所です。電源系のところで、日照・日陰の話をしましたが太陽光が当たる・当たらないのサイクルにより衛星もそのサイクルで温度が上下します。その温度変化サイクルの中で衛星の内部機器を適切な温度に保つように熱を制御するように設計します。空気が無いため対流による熱制御はできず、衛星特有の熱設計が必要です。
 熱・構造系および製造系には、機械系エンジニア、熱系エンジニア、そして衛星の組立・環境試験系エンジニアなどが活躍しています。

[1.6] 通信系(送受信アンテナ・送受信機)
 地上と衛星との交信を担う機能が(無線)通信系です。地上と衛星間でケーブルなど有線接続をすることはできないため、電波・マイクロ波・光通信などを用いて無線でデータのやり取りをしています。ほとんどの衛星は双方向通信であることが多く、地上から衛星をアップリンク、衛星から地上をダウンリンクなんて言ったりします。地上からは衛星に各種命令コマンド・ミッション指令(撮影指令)などをアップリンクし、衛星からは衛星の健康状態・各種ステータス・ミッションデータ(撮影画像データ)などをダウンリンクします。地上から衛星間なので最低でも数百キロの通信距離がありますので、スマホやWi-Fiなどの通信とは距離が全然違います。その為、衛星通信用の送受信アンテナや送受信機は衛星特有の物となることが多いです。
 通信系は、通信・高周波・変復調などに強い通信系エンジニアや、変復調やデータハンドリングなどを実装する組み込みソフトウェアエンジニア、そして通信機ケース・アンテナなどの設計にはアンテナ系の機械系エンジニアなどが活躍しています。近年、衛星の搭載計算機の高性能化、ストレージの大容量化が進んでおり、一つのボトルネックが衛星内で多くのミッションデータ(画像データなど)をため込んでもそれを十分に地上におろせない(ダウンリンクできない)という点があります。その為、衛星通信の速度はどんどん高速化しており、地上局を増やしたり、衛星間の中継構想など通信総量を拡大する試みがなされています。

第2回まとめ:
 今回は「衛星パート」における各要素の紹介と担当エンジニアのドメインを紹介してきましたがいかがでしょうか?こうやってみても、やはり衛星システムは宇宙工学だけで成り立っているわけでは決してなく、多くの技術ドメインが集まったシステム工学と言えます。アクセルスペースの社員も他業種からの転職者は多く、前職での技術を衛星に適用して活躍しています。衛星ならではの条件や設計手法ももちろんありますが、私としては他業種の常識やプラクティスを衛星に適用し新しいイノベーションが起きることに大きく期待しており、是非興味のお持ちのエンジニアの皆さんは我々にコンタクトをしてください。一緒に、皆さんの高い技術を衛星に適用し、面白い衛星を開発し宇宙に送り出しましょう!このnoteでもいずれ紹介したいと考えていますが、アクセルスペースでは、衛星システム特有のシステム工学に関して学ぶ機会や研修プログラムを用意しています。

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