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”大人の余裕”カタールW杯ベスト16 日本(E組1位)vsクロアチア(F組2位)マッチレビュー


日本 1 ー 1 クロアチア
(PK1ー3)
 

 いよいよ決勝トーナメントの戦いが始まり、日本はベスト8という”新しい景色”に挑戦するチャンスがやってきた。勝ち抜けすら厳しい前評判を押しのけ、堂々の1位通過を決めた森保JAPAN。確かな手応えと自信を胸に、前回準優勝クロアチアへと挑んでいく。

 日本は今大会CBとして主力を担っていたDF板倉が累積警告により出場停止のため欠場。またさらに、MF久保が体調不良のためトレーニングを欠席し、そのまま今試合も欠場している。そのためこれまでスーパーサブとしての起用がメインだった堂安が先発。布陣としてはスペイン戦に引き続き5バックをスタートから採用し、CBにはスペイン戦でも安定感を見せた谷口、そして負傷明けで限定的起用を重ねていた冨安が先発入りした。

 対するクロアチアはモロッコ、カナダ、ベルギーらとF組を戦い抜き、1勝2分の2位通過。首位モロッコ、難敵ベルギーとの試合をスコアレスドローで抑えつつ、カナダに対しては4-1と圧倒。ドローの試合においても、苦しい時間を組織的に耐え忍びつつ、チャンスを刺していく試合巧者ぶりが発揮されている印象。前回大会も決して順風満帆な内容でなくともしぶとく勝ち上がり、決勝まで辿り着いた猛者たちである。荒れに荒れた今大会のグループステージであるなか、無敗で切り抜けた組織としての安定感は世界屈指ともいえるかもしれない。

クロアチアのスタメンに関して言えば、なんといってもCFペトコビッチの起用がこの試合の重要なポイント。長身でエリア内での火力に長けた彼は今大会初先発。ここまでは途中出場にとどまっていたものの、基準点型FWのペトコビッチをスタートから起用したダリッチ監督の采配こそが、この試合におけるクロアチア戦術の柔軟性を生んだ気がする。

〇前半

果敢に前へ出る日本

 5バックを採用したとはいえ、日本はスペイン戦ほど後ろ重心だったわけではない。前半立ち上がりから果敢に前線プレスを敢行し、相手のビルドアップ封鎖を狙っていく。相手IHのモドリッチ、コヴァチッチに対して守田・遠藤がそれぞれマンツーで捕まえ、アンカーのブロゾビッチには対しては前だがカバーシャドウしつつパスコースを塞いでプレッシング。

とにかく中盤を制圧し、クロアチアのDFラインに圧をかけていく勇気ある決断と言えるだろう。日本のDFラインは広大なスペースを背後に抱えながらも、前線の選手に対してラインを押し上げてサポートした。

 この日本の狙い自体は理に適ってはいたと思う。まずグループステージ通じてクロアチアは中盤経由のビルドアップが基本であり、空中戦<地上戦をメインに戦ってきた。そもそも先発で重用されていた3トップはいずれも機動力に長けた選手。であれば最大の強みであり、手段であるクロアチアの中盤を制圧して主導権を握ろうとしたのは森保監督の強気さが伺える采配だろう。

ただ、日本が良い守備を続けることは時間の経過と共に難しくなっていった。日本がハイプレスにくるならば、とクロアチアDFラインは割と簡単にラフなロングボールを前線に蹴り始めたからだ。前線にいるペトコビッチ目掛けてボールを蹴るか、それともハイラインを敷く日本DFラインの背中に落とすか。

蹴っ飛ばしたボールの質も高い。勿論グヴァルディオルの左足の質がズバ抜けて良いというのもあるが、前田をはじめ日本の最前線がボールホルダーであるCBに対して寄せきれてないが故でもあった。FW前田大然は「ブロゾビッチへのパスコースを消しながらCBに寄せる」という役割を担っているので動きに制約があり、CBに対して直線的に寄せることができなかった。日本2シャドーの鎌田、堂安もハーフスペースのコース封鎖がメインだったので、相手CBまで寄せるには位置が遠目。日本が前掛かりなのは確かだが、中途半端さも感じる内容だった。

日本の前線プレスをロングボールでひっくり返されピンチを迎えるシーンが何度か起こり、徐々に全体が後退。最初からハイプレスとミドルプレスを切り替える予定だったのかもしれないが、プレスが緩んだことでクロアチアは得意のビルドアップが復活。中盤が流動的に動きながら起点を探し、詰まりそうになったらペトコビッチへロングボール。日本のやってくる事を見て、クロアチアは”後の先”を取った。

相手に合わせて型を使い分けるクロアチアの余裕

 試合通じて感じたのがクロアチアの「大人な余裕」。苦しいはずなのに焦ってはいないし、まぁそうよねくらいに受け入れる。ほんの僅かな隙間を縫って一撃を打ち、勝負を決めにかかる。キックオフから始まった攻撃も強烈だった。ペトコビッチ目掛けたロングボールを拾い、一気に日本のペナルティエリア内まで侵入。あわや先制というチャンスをいきなり作ってきた。

日本を押し込めたらクロス合戦→こぼれをモドリッチが拾ってシュートというクロアチア得点の様式美ともいえる形をつくる。勿論日本に攻め込まれて失点するピンチもあったものの、全体的に落ち着いていた印象だ。”劣勢でも良い”と言わんばかりに(とはいえ実際に先制されたのは誤算だったかもしれない)。

日本が攻撃でも示した勇気あるプレー

 日本は守備だけでなく、攻撃でもアグレッシブな展開が目立った。特にCB→シャドーへの縦パス。クロアチアのIHの後ろ、つまりアンカーであるブロゾビッチの両脇にはスペース(といっても広大ではない)があり、そこを日本の2シャドーが付け狙っていた。

鎌田と堂安が良いタイミングでも顔を出してもボールが出てこなければ意味がない。その点でも、日本の3CB陣はプレッシャーを受けながらも果敢にパスを通し、攻撃の起点作りに大きな貢献を果たしていたと思う。ボランチの遠藤、守田も良くピッチが見渡せていて、小気味よいサイドチェンジから攻勢を支援。ここはコスタリカ戦の反省でもあり、選手らの強気さがうまく表れた部分だろう。

オープンな展開から両軍チャンスを作る中、日本先制

 打ち合いとまではいかなかったが、日本もクロアチアも譲らない前半だった。消耗度合いで言えば日本の方がきつかったはずだが、それ自体は予想の範囲内だったはず。後半の勝負で試合を制してきたのが森保JAPANなのだから。

41分、この日何度も決定機を作ってきた日本のセットプレーからスコアが動く。右ショートコーナーから堂安が上げたクロスを吉田がエリア内で拾い、前田が押し込んで日本が先制。この日のCKはかなり期待感が高かった。3分にも得点シーン同様、右ショートコーナーのクロスから谷口があわせて惜しいシーンを作っていた。純粋な高さでは分が悪かった日本だが、工夫を活かしたシーンに胸が躍った。

劣勢上等、スコアレスで十分だったであろう日本。最高の状態で前半を折り返すことができた。

〇後半

ワンチャンスを刺すクロアチアの強かさ

 後半キックオフ、中盤の球際を拾った日本は素早く前線鎌田へと繋ぎ、前田のデコイランを活かしながら中央へ切り替えしてミドル。守備においてはまたも前プレを敢行し、積極的にクロアチアのボールホルダーへとアプローチ。前を向かせずに、GKまで戻してロングキック→回収の構図を作っていく。

しかし56分、クロアチアがワンチャンスを仕留める。クロアチアが日本陣内深くまで進出してボールを保持すると、CBロヴレンがアーリークロス。エリア内でほぼフリーで競ったペリシッチが首を振ると、ボールはゴール右隅へ。クロス1本、鮮やかなヘッドでクロアチアが試合を振り出しに戻してしまった。

 自陣深くまで押し込まれた日本は、クロスを上げたロヴレンをフリーにせざるを得なかった。フリーだったとはいえ、ロヴレンの上げたアーリークロスは最高の質であったし、キッチリとヘディングを決めきったペリシッチを褒め称えるべきだろう。日本としてはエリア内の人数こそ足りていたものの、局地的には同数(吉田がマークを渡して浮いていた為)でそこの質的優位(伊東vsペリシッチ)を突かれてしまったかなと。ただ、本職ウインガーの伊東に自陣エリア内での守備戦術まで求めるのは酷な気もする・・・。

浅野、三笘投入で奇跡の再現へ

 失点直後の58分には遠藤が惜しいミドルを放つなど、追いつかれたとはいえ意気消沈はしていない日本。ダリッチ監督は押し切り時と捉えたか、61分にFWペトコビッチに代えてFWブディミルを投入。彼もまた長身の基準点型のストライカーでありW杯初出場。ダリッチ監督はこれまでほぼ決まった交代メンバーを起用してきただけに、ここでリヴァヤではなくブディミルを据えたのは「この戦い方でいくぞ!」という意志の表れなのか。

その交代直後の63分には、PA手前のこぼれをモドリッチに拾われ得意のミドルシュート。この日ロングボールのこぼれからも起点を作っていたクロアチアが得た、最高の決定機(「いつもの」)だった。森保監督は64分、ドイツ、スペイン戦の奇跡を再現よろしくFW浅野(out前田)、FW三笘(out長友)を投入した。

交代直後には浅野がセカンドボールを拾って抜け出しかけるも、グヴァルディオルに体を入れこまれて決定機にはならず。浅野のスピードを活かして前線プレスをまた日本が行おうとするも、ここでもクロアチアはラフにボールを蹴って日本を押し込み、セカンドを拾って包囲完了と。クロアチアが見せたこのプレス回避方法をなんとか崩したかったのだが・・・後の先を取り続けるクロアチアの強かさたるや。

そもそもマイボールを確保できないので日本は三笘のドリブルを活かすシーンが作れない。奪ったら即カウンターで浅野に蹴っ飛ばすが、キープできないので押し上げれずまた守備へ____日本は攻め込みたい気持ちばかりが逸り、単調でギャンブル性の高い攻撃に偏りがちになってしまったのは痛い。

”戦術三笘”に対するクロアチアの回答

 クロアチアは三笘の投入直後、68分に右WGにパシャリッチを投入。アタランタ仕込みのマンツーをまずぶつけてくると。対面のパシャリッチのサポートにはIHモドリッチらもつける。かなり三笘のドリブルは警戒されていた。

74分、森保監督は負傷明けのDF酒井宏樹を鎌田に代えて投入。伊東とのマッチアップで後手を踏み始めていた左SBバリシッチを咎めると共に、三笘を警戒するクロアチアの逆を取りたい狙いだろうか。日本は正直ここらへんの時間帯から落ち着いたビルドアップを続けることはできず、後方でのイージーなパスミスからカウンターを食らう場面も。77分、吉田のパスミスをペリシッチに拾われて打たれたミドルを冨安がブロックできていなければ危なかった。流石に疲れますよね、ハイライン維持し続けるのは。

パシャリッチがしっかりと三笘へのパスコースを消しながらプレッシャーをかけたのも功を奏し、クロアチアは三笘を可能な限り試合から消しにかかる。もし持たれても最低2人で対応し、戻させた後のスライドは怠らない。「やれることをキッチリやれ!」というコンセプトがクロアチアの根底にあるんでしょうな。

 右に入れた酒井で攻め立てることもできない日本、86分には南野を堂安に代えて攻撃にテコ入れを目指すもなかなかうまくいかない。終盤になるにつれモドリッチ、コヴァチッチも遠藤・守田に対してタイトにマークをつけて簡単にはプレーさせなかったので、前半ほど鋭いサイドチェンジも出せなかったのは苦しかった。そもそも疲労感が凄まじく、酒井に対してボールを届けられるだけのエネルギーを失ってしまっていたような印象もあった。ラフなボールでも酒井は相手と競り合えるだけのフィジカルレベルだったし、残念ながらファウルを取られてしまったが制空権では分があった。愚直にサイドを攻め立ててもよかったのだが、そうなると中央の浅野はそこまで怖さを出せるタイプではない。コスタリカ戦でもみたようなジレンマを感じた。

〇延長戦

クロアチアの保持vs日本のカウンター

 クロアチアがラフ気味にボールを蹴りつつ起点を狙い、日本が拾ったら三笘中心にカウンターを刺していく。クロアチアも流石に疲労を隠せず、カウンターを受ける場面ではズルズルと下がって三笘の進軍を防ぎきれないシーンも。お互いに譲れない時間が進んでいく。

延長前半8分にダリッチ監督が二枚看板モドリッチとコヴァチッチを交代。彼らに代えてマイェルとヴラシッチを投入した。インサイドハーフにエネルギーが注入されたことで、ロングボールのセカンド回収とトランジション場面での活性化をめざしたっぽい。ともあれ、どの試合においてもどちらかがフル出場していたのがモドリッチとコヴァチッチであり、それが下がるという状況はダリッチ監督としても追い詰められているはず。ある種、賭けに出たということだ。

日本は延長通してカウンター中心の攻撃に終始し、右大外の酒井で橋頭堡を築くことも目途が立たたなかったのが痛い。「戦術三笘」、「浅野の爆発」でゲームを制してきただけに、それ以外の攻め筋に振り切るには迷いがあった感じも。浅野の飛び出しも、相手右CBとの駆け引きを制して左SBの裏を取るという「型」がある。つまり最終的にはグヴァルディオルとの勝負を制す必要があり、そこの勝負で負け続けてしまった。逆にロヴレンとの勝負をしてみては____と思ったが、左に抜け出して左足でフィニッシュするとうう型は浅野にないっぽい・・・・?

延長前半14分には三笘がドリブルから自陣から中央単独突破。惜しいミドルが決まっていれば文句なしワールドクラス仲間入りかと思われたが、リバコビッチも譲らず。延長前半が終了した。

ダリッチ監督、勝負手に出る

 延長後半開始には両軍動き、日本はMF田中碧を守田に代えて投入。クロアチアは途中交代で入っていたFWブディミルに代えてFWリヴァヤを、左WGペリシッチに代えてオルシッチを投入した。残りの15分で仕留めようという魂胆だ。

正直、延長後半に関してはワンサイドゲームに近い内容だった。日本は押し込まれすぎてカウンターを打つには位置が低すぎる。浅野もキープ<抜け出し狙いなので、ギャンブル性があまりに高い(キープできた時は攻撃のターンに繋がったが)。クロアチアの攻撃を日本がなんとか耐え凌ぎホイッスル。PK戦へと移った。

PK戦決着、クロアチアが勝利を手に

 日本はキッカー4人のうち3人が失敗。クロアチアがキッカー4人のうち3人が成功させ、日本の敗退が決まった。またもう一歩、ベスト8に到達することができなかった。

大会総括

 結果的にベスト8以上という目的を達成できなかった。ただ、大会屈指のジャイアントキリングを2度起こし、前回大会準優勝のクロアチアに対しても最後まで粘り強く戦った森保JAPANには称賛を送りたい。勿論、コスタリカ戦含めて課題は出た大会だった。それでも、少なくとも私は日本代表を誇らしく思ったし、大会前に不安がっていた自分を謝罪したい…。

 浅野、三笘という最高のジョーカーを得たがゆえに、戦い方が一辺倒になってしまったのは成功体験がゆえなので難しいところ。対してクロアチアは経験のなせる業なのか、相手に合わせてやり方を変えられる余裕と戦術理解度の高さがあった。いつか日本が、彼らのように度量の大きさを示せるような戦い方を見せてくれる日を期待したい。

森保JAPAN、感動をありがとう!

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