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既成概念を打ち破ること:Chim↑Pom展を観て

「変革するには、既成概念を打ち破らねばならない!」と盛んに言われます。では、既成概念を打ち破ることとは、具体的にどういうことでしょうか?
 
それは、そうたやすいことではありません。想像力と創造性とリスクを取る勇気、そして反対する人々と対話するオープンマインドが必要です。
 
森美術館で開催中の、「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」を観て、それについて考えさせられました。
 
Chim↑Pomは、「日本で最もラディカルなアーティスト・コレクティブ」と謳われていますが、本展覧会を見れば、それがよく理解できます。噂には聞いていましたが、いやはや凄い。
 
アートとは本来、既成概念をぶち壊すものです。しかし、近頃アートと呼ばれているものの多くは、お金持ちの愛玩具と化していると思えなくもありません。「金儲け」の解毒剤としてのアート。
 
Chim↑Pomは、その意味で純粋なアートを実現していることが、本展でよくわかります。
 
「広島で原爆を揶揄するような表現は良くない」という暗黙の前提があります。Chim↑Pomは、広島での展覧会に合わせて、原爆ドーム上空に飛行機を飛ばし、噴煙で「ピカッ」と青空に描きました。その映像が本展で観られます。

http://chimpom.jp/project/hiroshima.html 


 
「ピカッ」とは当然のことながら原爆ドーム上空で爆発した原子爆弾(ピカドン)を表します。そして、当然のように不謹慎だとの批判が寄せられます。その影響で展覧会は中止に追い込まれてしまいました。
 
Chim↑Pomの代表者は、事前予告を徹底しなかったことに対して謝罪。また、原爆被害者の会などとも、何度も対話をしたそうです(昨年亡くなった核兵器廃絶運動の中心的存在だった坪井直さんとも交流を続けていたそうです)。そして、地元メディアには、さまざまな報道がなされました。そうした多くの記事も、会場内のPCで読むことができます。そう、それ自体も作品の一部なのです。
 
このChim↑Pomのパフォーマンスは、なぜそれが不謹慎なことなのか、という本質的問題を問うています。少なくとも、ダメなものはダメと決めつけるのではなく、なぜダメなのかを考えるきっかけを作り出している。そして、批評ではなく自らが当事者としてその中心にいる。過激ではありますが、こうした姿勢は現在の日本に最も欠けており、かつ必要なことではないでしょうか。
 
 
もうひとつ私が感銘を受けたのは、「気合100連発」という約10分の映像作品です。「あいちトリエンナーレ2019」にも出品され、ものすごい批判も浴びたらしいのですが、素晴らしい作品だと思います。東日本大震災の津波で大きな被害を受けた福島県相馬市で、2011年5月、つまり震災の約二か月後に制作されました。陸に押し上げられた漁船など被害がなまなましい瓦礫の真っただ中で、Chim↑Pomメンバー4人と地元の若者6人が円陣を組みます。円陣の中心の地面にカメラを置いて、10人を見上げるアングルで撮影しています。
 
そして、順番に叫んでいきます。
こんな感じです。
「復興頑張るぞ!」・・「風評被害やめろ!」・・「早く漁したい!」
 
山手線ゲームのように、テンポよく、リズムを刻んで叫びます。
10人が10回で、計100連発です。
 
最初はわりと綺麗ごとを叫ぶのですが、だんだんハイになってきて、
「彼女が欲しい!」・・「車が欲しい!」・・「福島最高!」・・「放射能最高!」などとも発していきます。
 
「放射能最高!」の部分だけ切り取られて批判もされたようですが、それはおかしい。救援活動や復興で忙殺されている若者の、魂の叫びに聞こえました。

Chim↑Pomの卯城さんは、こう語っています。

「それを『最高』と叫んで笑いとばすことで、彼らは自分たちを鼓舞し、乗り越えようとしていたんだと思う。そんな、やぶれかぶれだけど、強烈な皮肉や葛藤に、僕は切実なエネルギーと感動を感じました。『最高』なんて思ってる人はひとりもいないですよ。でも、最低な状況を最低だって言っているだけじゃ生きていけない。 そんな時だからこそ、ユーモアを持って困難に立ち向かおうとする。人間にはそういう一面があるじゃないですか。機械じゃないんだから」

https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/kiai100


映される背景の悲惨さと、彼らの明るく元気な叫び声のコントラストに、思わず涙が出てきてしまいました。100発目を叫んだあとの盛り上がりは、まるで甲子園大会で優勝を決めた直後のチームのようでした。
 
常識的には、被災者はかわいそうな人で、消沈して、時に無理して明るく振る舞うけなげな姿を期待されると思います。実際、報道される被災者はそういう姿ばかりでした。
 
しかし、彼らの姿は、全く違いました。気合100連発での彼らも、一つの真実を表していると思います。それは人間の真実でもあります。そういう面を引き出したChim↑Pomの想像力は素晴らしい!

紋切型、既成概念、社会常識、それらに囚われて動けなくなってしまっている我々日本人にとって、Chim↑Pomのパフォーマンスは、大いに示唆に富んでいます。
 
自分はChim↑Pomの真似はできなくても、彼らから刺激をもらい、日常の見方を少しだけ変えてみる、その積み重ねが社会を変えていくのだと思います。

(タイトル写真は、2011年5月に、渋谷駅にある岡本太郎作の壁画「明日の神話」の端に、勝手にChim↑Pomが福島第一原発らしきものを書き加えたもの。これも議論を起こし、その議論自体も作品となる見ることができる)


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