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断片メモ:『Aqua note』


「他人の匂いが気になったのは、たぶん、はじめてだと思う」


雨はいつも、私たちの意思とは関係なく降り注ぐ。

雨音が粒立って屋根を叩く。

窓ガラスが風で揺れて。雫が風景をかき消して。

晴れやかな心の模様を裏切るように天気は陰りをみせる。

こういうのは迷惑だ。気が散る。

心なしか、勢いよく音楽室の扉を開ける。

ただし誰にも気づかれないようにするのは、

いつものように。用心して。呼吸は乱さない。

誰も居ない部屋には、

カーテンの隙間から差し込む明かりだけが色を指す。

この朝は、私の特別。

隣に座った彼女から、柔らかな気配を感じる。

他人の匂いが気になったのは、たぶん、はじめてだと思う。


上手なんだね。

転校生?

きみも演奏を?

ええ、そうね。

隣にいてもいいかな。とはいわなかった。


この音楽はどこにもいかない。

どこにも?

私たちは奏でる。二人で。

絶えることなく。潰えることなく。音は鳴り響く。


その髪に、いつかキスでもしようか。


私たちの音楽室。



女の子を口説くのには自信がある

素直じゃないのね

世渡りが上手いと言って欲しいな


水そのものには香りがない。

誰かが水に香りを与えた

これは水の表現の一つだ。


水族館は好きだけど、

やっぱり苦しくなる時もある

ここは本当の海じゃないから

作られた都合の良い場所


雨が降る音楽室。


「行ってみる?水族館。次のお休みの日」


まあ、別にいいけど…。



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