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トップセールスは、たいていうまくいかない (121/365)

トップセールスという言葉があります。本来、top-sales は文字通り売り上げNo1の営業のことなのですが、日本では以下の意味で使われることが多いですね。

「企業の社長自ら自社製品の特長や優秀性を宣伝し、積極的にセールスを行うこと。また、国の代表、地方自治体の代表などが、国や地方の産物・産業を、他の国や地方へ売り込むこと。」

以下では、上の意味でのトップセールスについて書いてみます。そもそもトップセールス自体は前向きな言葉です。タイミングを計って実行すれば膠着状態を脱してコトを前に進めることができるかも知れません。

しかし、いままで私が経験してきたトップセールスは、タイミングも意図もズレていて逆効果になってしまうものも多く見られました。

以下は筆者の経験に基づき一部省略、脚色して書いた事例です。

事例① 新製品開発
あるお客様専用の製品を開発していたときです。その製品は画期的な技術を搭載していて、もちろんリスクもありましたが、お客様はその可能性に賭けて投資してくれていました。

開発が佳境に差し掛かったころ、幹部がお客様を訪問しました。これまでのお礼とプロジェクトを完遂することの約束、というような趣旨だったのだろうと思いますが、

顧客「素晴らしい技術ですね。期待しています。」
幹部「はい、ありがとうございます。ただこの技術はまだ未成熟でして、成功の保証はできないのです。」
顧客「それはどういうことですか?」
幹部「はい。今後この技術の開発を継続するかはお約束できないということです。」
顧客「当社にそんな技術を押し付けたのですか?」
幹部「いえ。今回の製品はきっちり開発します。」
顧客「それは当たり前です。そんなリスクがあるなら単価を下げてください。」
幹部「検討させていただきます。」
顧客「・・・」

この製品は大成功しましたし、技術開発はいまでも継続しています。しかしこの意味不明なトップセールスによって、お客様の不安をあおり、結果として単価は50%オフとなりました。

事例② 想定外の応用
宇宙関係のお客様から、特徴ある部品の技術評価を受託していました。評価内容は純粋な技術評価ですが、自然な流れとして人工衛星での利用が想定されていました。

評価は好調でしたので、いよいよお客様が人工衛星搭載の検討を希望されたとき、またしてもトップセールスとなりました。

顧客「今回の評価に満足しています。ぜひ人工衛星搭載に向けてご協力いただきたい。」
幹部「ご評価ありがとうございます。しかし今回はあくまで技術評価でして衛星搭載というとまったく別の議論となります。」
顧客「どういうことですか?」
幹部「当社は宇宙応用と医療応用については製造責任が取れないので、対応できかねるのです。」
顧客「しかしこれまでに別の部品の搭載実績はありますし、今回については実証実験ですから、責任を問うようなことはしません。」
幹部「そういわれましても我々としても原則を破るわけには。技術評価の継続は可能ですが。」
顧客「・・・」

過去の実績から見て、宇宙応用への部品提供は決して不可能ではありませんでした。失敗を恐れたヘタレの対応だったのでしょうか。

事例③ 共同研究開発
他社との共同研究テーマ探索の場面です。

幹部「A社との研究連携は進んでいるか?」
担当「はい。なかなかテーマが見つかりませんが、地道に議論を重ねているところです。」
幹部「遅い!もっとなんとかしろ!」
担当「・・・」

後日
幹部「先方の役員にもっと積極的にやれとねじ込んでおいたぞ。」
担当「えっ?」
幹部「なんでもいいから、大玉の成果をなるはやで上げろ!」
担当「・・・」

現場はそれでも地道に可能性を探究していたのに、結果モチベーションはだださがりです。

トップセールスは、本来コトを加速させるポジティブな意味ですが、ここであげた事例は、コトを加速するどころか、邪魔したり、現場のモチベーションを落としているだけですね。

一番問題なのは、トップ本人が「俺は責任を果たした」と思い込んでいることなのです。例えば、「対応できません」と伝えたことでさえ、「俺は真摯に対応した」と思っているのでしょう。単なるヘタレなのに。

私は、幹部ではありませんので、現場主導、実績優先、でこれまでやってきました。時間はかかりますが、これに勝る方法はないと個人的には思っています。

今日も最後までお読みいただきありがとうございました。


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