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 全ての人の心に
 それぞれの交差点があって、
 僕のもっている交差点は
 酒屋さんのある小さなところだ。

 君の持っている
 交差点はきっと、
 高いビルに囲まれた
 オフィス街の風景で、
 街中だけれど緑もあって
 あまりごみごみしていないところ、
 だと思う。

 ヒールをカツカツ響かせて
 歩く姿勢のすらっとしている時や、
 けれども穏やかに微笑んで
 僕の話に相槌を打ってくれる時、
 そんな時の印象が きっと、
 僕にそんな風景を
 想像させたのだと思う。

 君の笑顔の背景に
 ちょうどそんな街並みが
 あったから、
 だから僕は多分このカフェで、
 君に その話をする決心を
 したのだろう。

 1番深い話をしようと決める時は
 恋に落ちた時だ、
 たった今知ったこと。
 珈琲の香りがするのも良かった、
 手帳とペンの組み合わせに、
 最も馴染む空間をつくる香りだから。

 さらさらとした
 心地いい感触の、
 少しだけ質のいい紙に
 十字路を描きながら、
 あの酒屋の前の自販機で売られていた
 昔の僕のお気に入りのジュースを、
 君に飲んでみてほしいと思った。
 何故か其処でしか売られていない、
 変わった名前のジュース。

 ふたりで飲んでみて、
 変な味だね、と言って
 笑う君を見てみたい。
 
 もしもまだ、売られていたなら。
 だから、一緒に確かめに行こう。
 そんな風に誘ってみようと、
 考えている自分がいる。

 君が もしも
 今日これからする僕の話を、
 最後まで聞いてくれたとしたら。

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