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Stargazer 海色の星

「また会いましたね」

岩場に腰かけ、ちゃぷちゃぷと足を遊ばせていると背後から声がした

「あ、星のお兄さん」
「…お久しぶりですね」
「フフ。覚えていてくれたんですね」

背後からの声の主は、いつか出会ったあの男性だった
やっぱり夜に消え入りそうな彼はそのまま素足になり、同じようにランプを置き、腰を下ろす
水中の彼のあしはうすぼんやりしていてまるでゴーストみたいだった

そういえば、まだ星を掴もうとしているのかな
それとも、焦がれた星を掴めたのかな

彼に問いかける
「星、掴めましたか?」
少し驚いたようにこっちをみる
「…まだですね、なかなかうまくいかないものです」
薄く笑うと星を見上げる

どうして、あんなにもはっきりとここにいるといっているのに
この手では掴めないのでしょう
ぽつりと口にした彼のその声は、少しだけ、ほんの少し震えていた

「…お兄さんといつかした約束果たせましたねぇ」
「…そうですねぇ」
さわさわと木々がこすれる音、遠くて近いモンスターの声
かすかな虫の音、少しの水の音
無音で光っているのに、ここだよ、ここにいるよと
まるで叫んでいるような星の音
自分のではない気配

「そういえば」
と彼は思い出したかのように続ける
「あれからたまにこちらに来ていたんですけれど、なかなかお会いできなかったので…よければこれを」
そういって小瓶を差し出す
「あっこれは…こんぺいとうですね!」
小瓶に詰められた色とりどりの小さな粒を眺めていると彼はいう
「星はまだ掴めてませんけど、星に似たものは手に入れられました」
「なんですか、うまいこと言うじゃないですか」
フフ、とやっぱり薄く笑う彼に星に似たものを数粒分ける
「やー、甘くて美味しい…ヘヘヘ」
ふたり空を眺めながら、星ではない星に似たようなものを口にする

ぽつぽつと話しながら夜を過ごす

夜もだいぶ降りてきたころ、「そろそろ帰りましょうか」という彼に続き立ち上がる
多くを語らない彼を知る術はまだないけれど、きっとそれが答えなのかもしれない

薄暗い道を歩く
分かれ道であいさつをして、別々の方向へ


「また会えたら一緒に星を眺めましょう」
「消えないでね、星のお兄さん」
「どうでしょうねえ…星は儚いものですから」

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