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何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン

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連載小説です。失われた魔法の探索の旅の途中、若き女魔法使いラザラ・ポーリンが、ゴブリン王国の王位継承争いに巻き込まれてゆく冒険物語です。迷い多き人生に勇気を与えたい、そんな志を持…
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#ハイファンタジー

#17. ゾニソン台地のホブゴブリン

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#17.ゾニソン台地のホブゴブリン  その日、チーグを敵視するダンは、秘密裡にゴブリン王国を出て、東の荒れ地にある<枯渇の谷>にいた。  同伴したのは、信用のおける側近の護衛兵三名と、金でやとった<四ツ目>の異名を持つ魔獣使いである。  東の荒れ地はゴブリンたちにとっても危険な土地で、訪れるものはたいてい何か深い理由がある。そこにいるだけで、何かを勘繰られるため、東の荒れ地に来ていることは、他の氏族の族長たちにも伏せて

#16. 生と死を隔てる場所で

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#16#16.生と死を隔てる場所で  ホブゴブリンたちの虜囚を逃れたゴブリン王国の第一王子チーグの一行は、ドルジ川沿いに北へと向かった。付き従うのは、ゴブリン王国親衛隊長のデュラモ、付き人のノト、そして雇われの魔法使いラザラ・ポーリンの三名である。  川は、丘陵と岩場が入り交じった地形を蛇行しながら流れていた。徒歩であるため、一日の移動には限度があったが、幸いなことに歩きやすい小道が続いていた。  距離をかせぎ、時間が

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#8

#8.陰謀談義  岩場をぬって流れてきた一筋の水が、乾いた土を湿らせ、やがてそこに水たまりを作るかのように、チーグ王子が帰還の旅路についたという噂はゴブリン王国の地下王都・リフェティに瞬く間に広まった。  王子の帰還を喜ぶ者、喜ばぬ者、それぞれが噂話をし、利害のある者は陰謀を巡らそうとする。何の利害もない一般のゴブリンたちも、チーグが無事に帰るか帰らないか、帰るとして東西南北どこから帰るか、といったことの賭けを始めていた。  父王ボランは、チーグが無事に帰還したあかつきに

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#5

#5.慌ただしい出立 翌日、早めに身支度を済ませたポーリンは、日の出前に待ち合わせ場所の東門へと向かった。  彼女の正装ともいえる、魔法使い用の黒いローブは背負い袋の中だ。いまは旅人風に、革製のベスト、腰当てとブーツを身につけ、深緑色のマントに身をくるんでいる。セピア色の髪は、ポニーテールにして後ろに垂らせていた。    魔法使いというよりは、小柄な女戦士のような出で立ちだが、腰のベルトに下げるのは、戦闘用の長剣ではなく、主に調理に使うための短剣と、魔法の触媒の入った小袋、

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#4

#4.風を感じたら、すぐ帆をあげろ チーグは、ゴブリン王国の第一王子であったが、“人間好き”という希代の変わり者であった。  幼少期、捕虜になった人間と仲良くなり、人間の言葉や知識を学んだ。略奪品の中に混じる数少ない人間の書物を読みあさり、人間への興味は増していった。  ゴブリン族はしばしば人間を襲い、人間もゴブリンを討伐すべき魔物と認識していることがほとんどだが、チーグは人間から学べばもっとゴブリン王国は栄えるに違いないと確信するようになった。  かくして、彼は王に即

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#3

#3.ゴブリンからの依頼「ゴブリン?」  ポーリンは驚いたが、とっさに戦いの構えをみせなかったのは、正面のテーブルに座る者が、色黒の人間の少年に見えたからだ。良家の少年のような服を着て、灰色の髪も整えている。だがその瞳は緑色で、口元からは牙がのぞいていた。  彼女以外に、室内にいるのはみなゴブリンのようだった。  そして彼女が最も驚いたのは、品の良い少年のような姿のゴブリンが、熱心に本を読んでいたことであった。テーブルの上にも、何冊もの本が並べられている。 「・・・ゴ

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#2

#2.赤いマントの隻眼の男 店の奥から、床板をきしませながら、大柄な男が歩み出てきた。人目を引く赤いマントが印象的な壮年男性だが、ポーリンはその顔をまじまじと観察した。  その男は、隻眼だった。右目は黒い眼帯におおわれている。その眼帯には、どういうわけか四つの目玉が描かれていた。黒い髪を全て後ろになでつけているせいで、額と隻眼が目立った。  そのたたずまい、雰囲気、隙のない所作は、立ち飲みで管を巻いている者たちとは比較にならない古強者の貫禄だった。 「あんた・・・<四ツ

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#1

#1. 冒険者の街リノン <冒険者の街>リノンは、近くに魔物が湧き出る地下迷宮、不死の者たちが住まう古城、危険な猛獣が待ち受けるダニラン渓谷などがあり、そこで腕を磨きたい冒険者たちが集うようになって、自然発生的に発展してきた街だ。  計画的に作られた街ではないので、大きくない木造の建物が無秩序に乱立し、ほこりっぽい砂地のうえに雑多な雰囲気の街が出来上がっていた。  いまや、冒険者のための食事や宿、武器などを提供する商人たちだけでなく、腕利きの冒険者たちを雇いたい者たちも集