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何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#29. 王都リフェティ、討ち入り前夜 話し合いが終わったあと、それぞれの役割を再確認したのちに、ポーリンはチーグたちとしばし歓談した。王都への潜入にあたり、別行動となることが決まったからだ。 チーグは胸を張ると、まるで部下に叙勲をする王のように堂々としながらも恭しくポーリンに言った。 「ラザラ・ポーリン、我々が『何者かになる旅』も最終局面だ。ぬかるなよ」 「そちらも気をつけて」 ポーリンは右手を差し出した
何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#27. 兄と弟、そして友たち チーグが<林の書庫>と呼ぶ隠れ家に、夜が訪れる。 パチパチと音を立てながら薪が燃える暖炉の前に、第二王子のバレは座っていた。病弱な彼にとって、リフェティからの脱出行は苦難であった。太陽の光が彼の体力を奪い、乾いた空気が咳の発作を引き起こす。木造りの家も苦手だった・・・彼は、エルフや人間ではない。木の匂いは、身体の弱った彼に不快さをもたらした。 リフェティの自分の部屋が一番だ・・・
何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#24. 死せるゴブリンたちとの宴 夢とも現実ともつかぬ淡いまどろみから、ポーリンは目を覚ました。 そこは、薄暗い塔の一室だった。黒曜石で作られた黒塗りの円形の部屋で、四方は開けており外の様子が見渡せた。 外に広がるのは荒涼とした大地に広がる枯れ木の森・・・ ポーリンははっきりと意識を取り戻した。 最後に覚えているのは、ノタックとともに骨のヒドラに立ち向かうときのこと。 「おやおや、お姫様がようやく目を
何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#22. リフェティ陥落 ゴブリン王国リフェティの東門―――門とは名ばかりの場所。通称、<谷門>。王国へ繋がる谷間の出口に、王国と東の荒れ地を区切る土塁がつまれ、狼煙台をかねた小さな見張りの塔が付属しているだけである。 見張りの塔には、三人のゴブリンの衛兵が詰めているが、ここは怠惰なゴブリン兵にとって理想の職場である。 <谷門>から出入りする者は、原則的にはいない。飯を食って、昼寝をするだけのお気楽な仕事だ。お忍
何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#20.枯れ木の迷宮 『短く、険しい道』 という言葉に反応し、宙に浮く炎の文字は姿を消した。 大地がざわめくような不気味な音を立てながら、枯れ木が生え変わり、彼らの目の前で姿を変えていった。 そして、現れたのは左右を枯れ木に挟まれた道・・・その道の先には、低い枯れ木が密集して作られた、巨大な迷路があった。 地の果てまで続く、枯れ木の迷宮。 彼らは、言葉を失った。 「・・・これが、短く、険しい道?」