マガジンのカバー画像

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン

41
連載小説です。失われた魔法の探索の旅の途中、若き女魔法使いラザラ・ポーリンが、ゴブリン王国の王位継承争いに巻き込まれてゆく冒険物語です。迷い多き人生に勇気を与えたい、そんな志を持…
運営しているクリエイター

#ホブゴブリン

#23. 全員小悪党

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#23. 全員小悪党  ゴブリン王国の第三王子ヨーは、「ゴブリンは、抜け目なく、ずる賢くあれ」という信念を持っている。  彼が目指すのは、そういう国だ。  打算に満ち、欺き、出し抜く。それができれば、ゴブリン王国はもっと栄えるはずだと信じている。  次の王を継ぐのは、人間どもの文化にかぶれた長兄チーグではなく、もちろん病弱な次兄バレでもない。その目的のため、彼はまず軍を掌握することに苦心した。三人の軍隊長は金で、一人

#22. リフェティ陥落

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#22. リフェティ陥落  ゴブリン王国リフェティの東門―――門とは名ばかりの場所。通称、<谷門>。王国へ繋がる谷間の出口に、王国と東の荒れ地を区切る土塁がつまれ、狼煙台をかねた小さな見張りの塔が付属しているだけである。  見張りの塔には、三人のゴブリンの衛兵が詰めているが、ここは怠惰なゴブリン兵にとって理想の職場である。  <谷門>から出入りする者は、原則的にはいない。飯を食って、昼寝をするだけのお気楽な仕事だ。お忍

#17. ゾニソン台地のホブゴブリン

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#17.ゾニソン台地のホブゴブリン  その日、チーグを敵視するダンは、秘密裡にゴブリン王国を出て、東の荒れ地にある<枯渇の谷>にいた。  同伴したのは、信用のおける側近の護衛兵三名と、金でやとった<四ツ目>の異名を持つ魔獣使いである。  東の荒れ地はゴブリンたちにとっても危険な土地で、訪れるものはたいてい何か深い理由がある。そこにいるだけで、何かを勘繰られるため、東の荒れ地に来ていることは、他の氏族の族長たちにも伏せて

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#14

#14.目覚め ホブゴブリンは、ポーリンを殴った。彼女は地面に倒れそうになったが、どうにか踏みとどまり、氷のように冷たい目でホブゴブリンをにらんだ。  ホブゴブリンは、倒錯した興奮に身を包まれたように、怒りと笑いを混ぜ合わせた表情を浮かべた。 「いいぜ、興奮するねえ、醜い人間よ」  再びホブゴブリンが拳で殴った。  今度はポーリンは地面に倒れた。殴られた方の顔は赤く腫れ、地に伏した方の顔はほこりまみれになった。  屈辱的な状況―――だが。  ホブゴブリンは、魔法使

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#13

#13.内省と、恥辱と  静かな時間は、耐えがたいほどに長く感じるものだった。    深い失望はやがて色あせ、自らを待ち受ける運命に対する恐怖が徐々に頭をもたげる。  死、そのものをそれほど恐れてはいない―――はずであった。けれども、死の断崖を間近にのぞき込めば、そのときにはまた別の感情が芽生えるかも知れない。  いま、恐れるのは、こんな世界の果てのような場所で、誰にも知られることなく、孤独に死に果てること。消息不明となり、彼女を知る者たちが、その死を知ることすらなく、た