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何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#23. 全員小悪党 ゴブリン王国の第三王子ヨーは、「ゴブリンは、抜け目なく、ずる賢くあれ」という信念を持っている。 彼が目指すのは、そういう国だ。 打算に満ち、欺き、出し抜く。それができれば、ゴブリン王国はもっと栄えるはずだと信じている。 次の王を継ぐのは、人間どもの文化にかぶれた長兄チーグではなく、もちろん病弱な次兄バレでもない。その目的のため、彼はまず軍を掌握することに苦心した。三人の軍隊長は金で、一人
何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#22. リフェティ陥落 ゴブリン王国リフェティの東門―――門とは名ばかりの場所。通称、<谷門>。王国へ繋がる谷間の出口に、王国と東の荒れ地を区切る土塁がつまれ、狼煙台をかねた小さな見張りの塔が付属しているだけである。 見張りの塔には、三人のゴブリンの衛兵が詰めているが、ここは怠惰なゴブリン兵にとって理想の職場である。 <谷門>から出入りする者は、原則的にはいない。飯を食って、昼寝をするだけのお気楽な仕事だ。お忍
何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#17.ゾニソン台地のホブゴブリン その日、チーグを敵視するダンは、秘密裡にゴブリン王国を出て、東の荒れ地にある<枯渇の谷>にいた。 同伴したのは、信用のおける側近の護衛兵三名と、金でやとった<四ツ目>の異名を持つ魔獣使いである。 東の荒れ地はゴブリンたちにとっても危険な土地で、訪れるものはたいてい何か深い理由がある。そこにいるだけで、何かを勘繰られるため、東の荒れ地に来ていることは、他の氏族の族長たちにも伏せて
#14.目覚め ホブゴブリンは、ポーリンを殴った。彼女は地面に倒れそうになったが、どうにか踏みとどまり、氷のように冷たい目でホブゴブリンをにらんだ。 ホブゴブリンは、倒錯した興奮に身を包まれたように、怒りと笑いを混ぜ合わせた表情を浮かべた。 「いいぜ、興奮するねえ、醜い人間よ」 再びホブゴブリンが拳で殴った。 今度はポーリンは地面に倒れた。殴られた方の顔は赤く腫れ、地に伏した方の顔はほこりまみれになった。 屈辱的な状況―――だが。 ホブゴブリンは、魔法使
#13.内省と、恥辱と 静かな時間は、耐えがたいほどに長く感じるものだった。 深い失望はやがて色あせ、自らを待ち受ける運命に対する恐怖が徐々に頭をもたげる。 死、そのものをそれほど恐れてはいない―――はずであった。けれども、死の断崖を間近にのぞき込めば、そのときにはまた別の感情が芽生えるかも知れない。 いま、恐れるのは、こんな世界の果てのような場所で、誰にも知られることなく、孤独に死に果てること。消息不明となり、彼女を知る者たちが、その死を知ることすらなく、た