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何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン

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連載小説です。失われた魔法の探索の旅の途中、若き女魔法使いラザラ・ポーリンが、ゴブリン王国の王位継承争いに巻き込まれてゆく冒険物語です。迷い多き人生に勇気を与えたい、そんな志を持…
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#古典的なファンタジー

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#5

#5.慌ただしい出立 翌日、早めに身支度を済ませたポーリンは、日の出前に待ち合わせ場所の東門へと向かった。  彼女の正装ともいえる、魔法使い用の黒いローブは背負い袋の中だ。いまは旅人風に、革製のベスト、腰当てとブーツを身につけ、深緑色のマントに身をくるんでいる。セピア色の髪は、ポニーテールにして後ろに垂らせていた。    魔法使いというよりは、小柄な女戦士のような出で立ちだが、腰のベルトに下げるのは、戦闘用の長剣ではなく、主に調理に使うための短剣と、魔法の触媒の入った小袋、

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#4

#4.風を感じたら、すぐ帆をあげろ チーグは、ゴブリン王国の第一王子であったが、“人間好き”という希代の変わり者であった。  幼少期、捕虜になった人間と仲良くなり、人間の言葉や知識を学んだ。略奪品の中に混じる数少ない人間の書物を読みあさり、人間への興味は増していった。  ゴブリン族はしばしば人間を襲い、人間もゴブリンを討伐すべき魔物と認識していることがほとんどだが、チーグは人間から学べばもっとゴブリン王国は栄えるに違いないと確信するようになった。  かくして、彼は王に即

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#2

#2.赤いマントの隻眼の男 店の奥から、床板をきしませながら、大柄な男が歩み出てきた。人目を引く赤いマントが印象的な壮年男性だが、ポーリンはその顔をまじまじと観察した。  その男は、隻眼だった。右目は黒い眼帯におおわれている。その眼帯には、どういうわけか四つの目玉が描かれていた。黒い髪を全て後ろになでつけているせいで、額と隻眼が目立った。  そのたたずまい、雰囲気、隙のない所作は、立ち飲みで管を巻いている者たちとは比較にならない古強者の貫禄だった。 「あんた・・・<四ツ

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#1

#1. 冒険者の街リノン <冒険者の街>リノンは、近くに魔物が湧き出る地下迷宮、不死の者たちが住まう古城、危険な猛獣が待ち受けるダニラン渓谷などがあり、そこで腕を磨きたい冒険者たちが集うようになって、自然発生的に発展してきた街だ。  計画的に作られた街ではないので、大きくない木造の建物が無秩序に乱立し、ほこりっぽい砂地のうえに雑多な雰囲気の街が出来上がっていた。  いまや、冒険者のための食事や宿、武器などを提供する商人たちだけでなく、腕利きの冒険者たちを雇いたい者たちも集