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何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン

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連載小説です。失われた魔法の探索の旅の途中、若き女魔法使いラザラ・ポーリンが、ゴブリン王国の王位継承争いに巻き込まれてゆく冒険物語です。迷い多き人生に勇気を与えたい、そんな志を持…
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#冒険物語

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#9

#9.狂う予定 チーグたち一行の旅は、一見順調に進んでいるかに見えた。  リノンの街を出発してから五日で、野盗や、灰色狼の群れ、バグベア、そして賞金稼ぎの殺し屋たちに襲撃されたが、いずれも撃退した。  ポーリンは、サントエルマの森で勉強し、訓練したことが実戦で役立っていることを実感し、経験を積むことで自信を深めていた。  彼女が現在、寝る前に取り組んでいるのは新しい魔法の呪文の訓練であった。火の球を小さくして、炎の手の呪文のように掌の上にとどめ、望むように操作するという

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#7

#7.旅路  ドルジ川沿いの小道に沿って、一行の旅は続いた。  旅のあいだも、暇があればチーグは本を読んでいた。  彼は馬車の中に百冊ちかくの書物を積んでいた。詩や文学、歴史書から、農業や建築に関する技術的な本、さらには人間の文化・風俗や料理に関するものまで。  休憩のときに、ポーリンは一冊の本を手に取ってみたが、何が書いてあるのかちんぷんかんぷんだった。魔法の呪文書や、植物・触媒に関する書物は何百冊も目に通してきた彼女であるが、農業や建築の書物になるとさっぱりだった。

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#5

#5.慌ただしい出立 翌日、早めに身支度を済ませたポーリンは、日の出前に待ち合わせ場所の東門へと向かった。  彼女の正装ともいえる、魔法使い用の黒いローブは背負い袋の中だ。いまは旅人風に、革製のベスト、腰当てとブーツを身につけ、深緑色のマントに身をくるんでいる。セピア色の髪は、ポニーテールにして後ろに垂らせていた。    魔法使いというよりは、小柄な女戦士のような出で立ちだが、腰のベルトに下げるのは、戦闘用の長剣ではなく、主に調理に使うための短剣と、魔法の触媒の入った小袋、

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#2

#2.赤いマントの隻眼の男 店の奥から、床板をきしませながら、大柄な男が歩み出てきた。人目を引く赤いマントが印象的な壮年男性だが、ポーリンはその顔をまじまじと観察した。  その男は、隻眼だった。右目は黒い眼帯におおわれている。その眼帯には、どういうわけか四つの目玉が描かれていた。黒い髪を全て後ろになでつけているせいで、額と隻眼が目立った。  そのたたずまい、雰囲気、隙のない所作は、立ち飲みで管を巻いている者たちとは比較にならない古強者の貫禄だった。 「あんた・・・<四ツ