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何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン

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連載小説です。失われた魔法の探索の旅の途中、若き女魔法使いラザラ・ポーリンが、ゴブリン王国の王位継承争いに巻き込まれてゆく冒険物語です。迷い多き人生に勇気を与えたい、そんな志を持…
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#ドワーフ

#27. 兄と弟、そして友たち

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#27.  兄と弟、そして友たち  チーグが<林の書庫>と呼ぶ隠れ家に、夜が訪れる。  パチパチと音を立てながら薪が燃える暖炉の前に、第二王子のバレは座っていた。病弱な彼にとって、リフェティからの脱出行は苦難であった。太陽の光が彼の体力を奪い、乾いた空気が咳の発作を引き起こす。木造りの家も苦手だった・・・彼は、エルフや人間ではない。木の匂いは、身体の弱った彼に不快さをもたらした。  リフェティの自分の部屋が一番だ・・・

#26. 林の書庫にて

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#26. 林の書庫にて  ダネガリスの言葉通り、枯れ木の塔からダネガリスの野を越えるまでは何の障害もない一本道で、翌日の夕方には、チーグたちはゴブリン王国の南端へと到達していた。  彼らは、チーグが<林の書庫>と呼ぶ、木々に囲まれた古い屋敷へと向かった。  かつて、王国の南側の見張り兵の詰め所であったが、ダネガリスの野から王国へ入る者はいないため、いつしかうち捨てられた廃屋となっていた。それをチーグが補修し、こっそりと

#16. 生と死を隔てる場所で

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#16#16.生と死を隔てる場所で  ホブゴブリンたちの虜囚を逃れたゴブリン王国の第一王子チーグの一行は、ドルジ川沿いに北へと向かった。付き従うのは、ゴブリン王国親衛隊長のデュラモ、付き人のノト、そして雇われの魔法使いラザラ・ポーリンの三名である。  川は、丘陵と岩場が入り交じった地形を蛇行しながら流れていた。徒歩であるため、一日の移動には限度があったが、幸いなことに歩きやすい小道が続いていた。  距離をかせぎ、時間が

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#10

#10.魔獣との戦い  死をもたらす息を吐きながら、悠然と丘の上から降りてきたヘルハウンドの背の上で、隻眼の赤いマントの男が口を開いた。 「ゴブリン王子チーグ殿下の一行とお見受けする。黙って捕まってくれれば、手間が省けるのだが、いかがだろうか?」  低く渋い声だが、あきれるような尊大な申し出だった。  チーグは馬車の中から這い出ると、器用に車を引く馬の背の上に立った。 「それよりも、いい提案がある。俺たちの側につけば、雇い主の三倍の金を払うが、どうだ?」  チーグは

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#9

#9.狂う予定 チーグたち一行の旅は、一見順調に進んでいるかに見えた。  リノンの街を出発してから五日で、野盗や、灰色狼の群れ、バグベア、そして賞金稼ぎの殺し屋たちに襲撃されたが、いずれも撃退した。  ポーリンは、サントエルマの森で勉強し、訓練したことが実戦で役立っていることを実感し、経験を積むことで自信を深めていた。  彼女が現在、寝る前に取り組んでいるのは新しい魔法の呪文の訓練であった。火の球を小さくして、炎の手の呪文のように掌の上にとどめ、望むように操作するという

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#7

#7.旅路  ドルジ川沿いの小道に沿って、一行の旅は続いた。  旅のあいだも、暇があればチーグは本を読んでいた。  彼は馬車の中に百冊ちかくの書物を積んでいた。詩や文学、歴史書から、農業や建築に関する技術的な本、さらには人間の文化・風俗や料理に関するものまで。  休憩のときに、ポーリンは一冊の本を手に取ってみたが、何が書いてあるのかちんぷんかんぷんだった。魔法の呪文書や、植物・触媒に関する書物は何百冊も目に通してきた彼女であるが、農業や建築の書物になるとさっぱりだった。