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何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン

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連載小説です。失われた魔法の探索の旅の途中、若き女魔法使いラザラ・ポーリンが、ゴブリン王国の王位継承争いに巻き込まれてゆく冒険物語です。迷い多き人生に勇気を与えたい、そんな志を持…
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2024年2月の記事一覧

#30. 開戦

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#30. 開戦  翌日、ゴブリン王都リフェティへの潜入作戦は、静やかに開始された。  チーグ、バレ、デュラモ、ノトの四人のゴブリンは、リフェティの外縁の森の中にある秘密の通路からリフェティへ侵入した。  ポーリン、ノタック、<四ツ目>は、森の中を音もなく駆け、森の中からへそのように突き出た岩の台地――――リフェティの中心を目指す。  歴戦の古強者であるノタックや<四ツ目>と肩を並べて行動しながら、ポーリンは少し面白ろ

#29. 王都リフェティ、討ち入り前夜

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#29. 王都リフェティ、討ち入り前夜  話し合いが終わったあと、それぞれの役割を再確認したのちに、ポーリンはチーグたちとしばし歓談した。王都への潜入にあたり、別行動となることが決まったからだ。  チーグは胸を張ると、まるで部下に叙勲をする王のように堂々としながらも恭しくポーリンに言った。 「ラザラ・ポーリン、我々が『何者かになる旅』も最終局面だ。ぬかるなよ」 「そちらも気をつけて」  ポーリンは右手を差し出した

#27. 兄と弟、そして友たち

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#27. 兄と弟、そして友たち  チーグが<林の書庫>と呼ぶ隠れ家に、夜が訪れる。  パチパチと音を立てながら薪が燃える暖炉の前に、第二王子のバレは座っていた。病弱な彼にとって、リフェティからの脱出行は苦難であった。太陽の光が彼の体力を奪い、乾いた空気が咳の発作を引き起こす。木造りの家も苦手だった・・・彼は、エルフや人間ではない。木の匂いは、身体の弱った彼に不快さをもたらした。  リフェティの自分の部屋が一番だ・・・

#26. 林の書庫にて

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#26. 林の書庫にて  ダネガリスの言葉通り、枯れ木の塔からダネガリスの野を越えるまでは何の障害もない一本道で、翌日の夕方には、チーグたちはゴブリン王国の南端へと到達していた。  彼らは、チーグが<林の書庫>と呼ぶ、木々に囲まれた古い屋敷へと向かった。  かつて、王国の南側の見張り兵の詰め所であったが、ダネガリスの野から王国へ入る者はいないため、いつしかうち捨てられた廃屋となっていた。それをチーグが補修し、こっそりと

#25. 大魔法使いヤザヴィの遺志

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#25. 大魔法使いヤザヴィの遺志  ゴブリンが魔法の才を持つことは、極めて稀である。  それも、数十年に一人、といった稀さではない。数百年に一人、という稀さである。  それを理解していたヤザヴィは、後世に現れるであろう、才能あるゴブリン族の魔法使いのために、ダネガリスの野を築いた。弟子のダネガリスが、死後もここに留まるという制約をもって、長きにわたって強力な魔法の力を保たせている。  ここは、ゴブリンの魔法使いのた

#24. 死せるゴブリンたちとの宴

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#24. 死せるゴブリンたちとの宴  夢とも現実ともつかぬ淡いまどろみから、ポーリンは目を覚ました。  そこは、薄暗い塔の一室だった。黒曜石で作られた黒塗りの円形の部屋で、四方は開けており外の様子が見渡せた。  外に広がるのは荒涼とした大地に広がる枯れ木の森・・・  ポーリンははっきりと意識を取り戻した。  最後に覚えているのは、ノタックとともに骨のヒドラに立ち向かうときのこと。 「おやおや、お姫様がようやく目を

#23. 全員小悪党

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#23. 全員小悪党  ゴブリン王国の第三王子ヨーは、「ゴブリンは、抜け目なく、ずる賢くあれ」という信念を持っている。  彼が目指すのは、そういう国だ。  打算に満ち、欺き、出し抜く。それができれば、ゴブリン王国はもっと栄えるはずだと信じている。  次の王を継ぐのは、人間どもの文化にかぶれた長兄チーグではなく、もちろん病弱な次兄バレでもない。その目的のため、彼はまず軍を掌握することに苦心した。三人の軍隊長は金で、一人

#22. リフェティ陥落

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#22. リフェティ陥落  ゴブリン王国リフェティの東門―――門とは名ばかりの場所。通称、<谷門>。王国へ繋がる谷間の出口に、王国と東の荒れ地を区切る土塁がつまれ、狼煙台をかねた小さな見張りの塔が付属しているだけである。  見張りの塔には、三人のゴブリンの衛兵が詰めているが、ここは怠惰なゴブリン兵にとって理想の職場である。  <谷門>から出入りする者は、原則的にはいない。飯を食って、昼寝をするだけのお気楽な仕事だ。お忍

#21. 生きる意味を与える瞬間

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#21. 生きる意味を与える瞬間  その姿をみて、ポーリンはサントエルマの森にあった図鑑の1ページを思い出していた。 「あの九つの首の化け物は、ヒドラ・・・の骨?」 「ああ、ヒドラね」  チーグは半ば諦めたように淡々とつぶやいた。 「大魔法使いヤザヴィも戦ったという・・・」  ヒドラの骨は、とても骨とは思えないような生々しい咆吼を上げながら、九つの虚ろな眼窩に邪悪な炎を灯らせていた。  戦いを予感したノタックは

#20. 枯れ木の迷宮

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#20.枯れ木の迷宮 『短く、険しい道』  という言葉に反応し、宙に浮く炎の文字は姿を消した。  大地がざわめくような不気味な音を立てながら、枯れ木が生え変わり、彼らの目の前で姿を変えていった。  そして、現れたのは左右を枯れ木に挟まれた道・・・その道の先には、低い枯れ木が密集して作られた、巨大な迷路があった。  地の果てまで続く、枯れ木の迷宮。  彼らは、言葉を失った。 「・・・これが、短く、険しい道?」