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青森旅行番外編 高速うんこ事件

こんにちは、伊藤亜和です。

先日、祖父母と3人で青森へ旅行に行ってまいりました。
横浜から車で10時間ほどかけて北上し、弘前に到着した後は四日かけて青森市内、浅虫、深浦、天童(これは山形ですが)と。旅行とは言いましたが、実際は祖母の申親戚、友人のご機嫌伺いであります。

私は、1日くらいはひとりで夜の街に繰り出す時間があるかしらと、祖父母パーティーからの脱出の機会をうかがっておりましたが、実際は両脇をガッツリ固められて車のハンドルを握らされ、ひとりで気ままに散策する時間など確保できるわけもなく、終始知らないお年寄りに愛想良く挨拶をしては、祖父に小声で「誰この人」と確認する作業に徹するばかりでした。大好きなシソンヌのじろうさんのご実家に行けなかったのも悔やまれます。

青森おんなひとり酒は叶いませんでしたが、今まで知らなかった祖母の過去など、今回の旅にはたくさんの収穫がありました。それはいつかどこかでありがたく書かせていただくとして、ここでは帰り道の緊迫したワンシーンについてお話したいと思います。

山形のビジネスホテルをチェックアウトしたあと、私たちは行きの道を逆さに辿るようにして横浜を目指し、ついに首都高に入ったところでした。東京スカイツリーが目の前に現れたころ、助手席に乗っていた祖母が言いました。

「うんこが出そう」と。

津軽人といえば、その気質はたいてい「じょっぱり」という言葉に着地します。じょっぱりとは津軽方言で「強情張り」「意地っ張り」という意味です。津軽の人はとにかく頑固で我慢強い。北の厳しい風土がそうさせるのでしょうが、私の見てきた感想では、比較的男性のほうは気は優しくのんびりしている印象があります。

つまり、じょっぱりだなあと感じる人はなぜか圧倒的に女性が多いのです。せっかち!頑固!超強がり!という感じで、祖母に至っては人に謝っているところなど見たことがありません。旅行中、祖母が不意に「ごめんなぁ」とぼやいていたので何事かと思ったのですが、よく聞いてみるとどうやら死んだ身内の墓参りに行けないことを謝罪しているようでした。それを聞いた私は思わず「死人には謝れるんだね」と言ってしまいました。

自分が正しいと思えばブルドーザーを使っても動かず、どれだけ体調が悪くても人に助けを求めようとしない祖母。本心をなかなか口に出さないくせに、思うように人が動いてくれなければ、あとからブツブツと湿っぽく愚痴を言う祖母。そういう人です。なので、祖母にどうしたいか問うときは何度もしつこく確認しなければなりません。

つまりどういうことかと言いますと、祖母が口に出して体調を報告するということは「それほど切羽詰まっている状況だ」ということなのです。これはまずい。私は即座に危機を察知しました。しかしここは高速道路。都合よくトイレが現れるとは思いません。

そこで、私は持っていたス〇ッパ下痢止めを祖母に差し出しました。しかし祖母はよくわからない薬を嫌うタチであり、案の定私が差し出したス〇ッパも「なんか怖い」という理由で拒否されてしまいました。そこで、私は仕方なく運転していた祖父に「一旦高速を降りてはどうか」と提案をしました。状況が状況だったので私も焦ってしまい、提案というよりはほとんど指示だったと思います。

しかしなんということでしょう。祖父はなんと、私の提案を拒否してきたのです。曰く「東京の道はわからないからいやだ」というのです。スカイツリーがすぐそこにあるからそこまで行けばトイレはあると言っても「いやだ。家まで我慢できるだろう」の一点張り。家まではまだ1時間以上あり、渋滞の気配すらあるというのに。それを言われた祖母も「我慢する」と意地を張り出す始末。

信じらんない。うんこ漏らすか漏らさないかって、人権の最前線じゃないですか。最前線であり最後の砦じゃないですか。どうしてそこを死に物狂いで守ろうとしないのか。多少道に迷うより、うんこ漏らすほうが明らかに大変なことになるのに、どうしてふたりしてなんとなく「漏らしたらそれはそれでしかたない…」みたいな方向で結論が出つつあるのか。なぜ自ら苦しみに向かっていくのか。

あぁ、人間はこうやって、戦争に向かっていくのだろう。守るべき部分をはっきりと示さないと、人は簡単に最悪の結論に向かうのだと、笑いごとでなく本当にそう思いました。後部座席の私ひとりがほとんど半狂乱の状態で「もうおしまいだ」と、そう思ったとき、500メートル先にPの文字。止まれ!!止まれぇ!!!と叫んで車を止まらせ祖母は無事トイレへ、助かった。しかしいちど昂ぶった感情はそう落ち着かず、私は泣きながら親戚に電話してなだめてもらい、なんとか落ち着きました。

なんで人がうんこ漏らしそうになって私が泣かなきゃいけないんだ。我ながらわけがわからないよ。じょっぱりもたいがいにしてほしいよ。

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