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雑記 | 楽園

誰にも自分にとっての楽園というものはあるんだと思う。

わたしにとっての楽園は、祖父母が営んでいた喫茶店だった。過去形だということはもうこの世にないということだ。何代かにわたって続いていた喫茶店で、純喫茶中の純喫茶だった。いつもうっすらと煙草が香っていた。色々な事情でわたしが小学生の時に閉店という形がとられた。

一回、祖父が常連さんに閉店するということを告げている現場をみた。常連さんは泣いていた。愛されている場所だったんだと改めて実感したのをとても覚えている。

落ち着きに来た喫茶店で小さい子がうろちょろしていたら嫌な気がする人もいるだろうに、わたしと兄弟の成長を温かく見守ってくれたお客さんたちはとてもやさしかったなと思う。実は嫌だったりしたかもしれないが。

土日になると喫茶店に行き、本を読んだりお絵描きをしたり常連さんとお話したりしたあの日々はわたしの宝物となっている。お昼になるとカレーライスや鉄板ミートスパゲティなどを一丁前に食べさせてもらっていた。普段食べることのできない赤いウインナーが乗っているのがたまらなく嬉しかった。

たまに祖父はご褒美でクリームソーダを作ってくれた。
綺麗な緑色のメロンソーダにバニラのアイスクリームと赤いさくらんぼがのったクリームソーダ。炭酸が苦手だったわたしが唯一おいしく飲めたクリームソーダ。器まで素敵だったクリームソーダ。祖父が作ったクリームソーダが一番おいしかった。これは今も思っている。どんな喫茶店で飲んでも、どんなカフェで飲んでもあの思い出のクリームソーダにはどうしても勝てないのだ。なにがそんなによかったのか分からないが、大好きな場所でご褒美で飲んだということがたまらなく嬉しかったのだろう。

常連さんにも恵まれた幼き頃のわたしの将来の夢は、当たり前のように「喫茶店を継ぐこと」になった。他の職業は眼中になかった。閉店してしまった今、継ぐことはできなくなってしまったが、実は看板と目印(?)となっていたライオンの像はお願いして取っておいてもらってある。多分今も押し入れに眠っている。いつか使うことができたらいいなと思う。

大学生であるわたしは贅沢なお金を持っている訳ではないが、なけなしのお金を持っていつのまにか喫茶店に行っている。1か月の3分の1は喫茶店にいるのではないだろうか。今書いてびっくりした。そんなに行ってるのかわたし。

やっぱり喫茶店はわたしの楽園らしい。
喫茶店に行く理由なんて「好きだから」で十分。

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