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山田哲人 その厳しさとキャプテンシー
優勝すると、たくさんの記事が出てくる。それは、報道記事だけでなく、選手本人や家族の手記、番記者コラム、選手ゆかりの人物への取材と、多岐に渡り、毎日追いつかない。
一度読んだ記事も、一度手放してしまうと途端に見失ってしまう。検索には、うろ覚えの単語を並べる羽目になる。
どんどんあふれ出る、外からヤクルトを見ている私が知り得ない、たくさんの裏話やこぼれ話。
その中で、私が感心したのは、キャプテン・山田哲人の「厳しさ」だった。
清水昇は、21年シーズン、50ホールドという新記録を達成し、2年連続最優秀中継ぎ賞に輝いた。72試合に登板し、勝利の方程式の一員となった清水が、NPBの記録を塗り替えるシーズン48ホールドを達成した10月17日の取材では、山田キャプテンのバックアップについて語っている。
周囲の支えでたどり着いた。今季は積極的に声をかけてくれる主将の山田に助けられている。マウンド上では「球行ってるよ」とプラスの声をかけてくれる先輩。打たれた試合後には、時に「悪くなかったよ」と励まされ、時に「あの場面であの球はない」と厳しい言葉をもらう。
驚いた。山田哲人が、マウンド会議で積極的に声をかける姿は、たくさん見ていた。しかし当然、どんな声掛けをしているかは、スタンドにいる私には届かない。表情やジェスチャーを見る限りでは、ピッチャーを励ましているように見える。
しかし、それとは違う言葉がけも、実はあったのだ。
そして、日本シリーズを終えた後の独占手記で、後輩に厳しく接したことを明かしている。
主将らしいことはしていない。ただ若手に言うべきことは言った。開幕直後の中日戦。代走で出た新人の並木が三塁走者でスタートが悪くて本塁で憤死した。帰りのバスで横に座り「お前の立場上、足でアピールするのが大事。息の長い選手を目指すなら、できないとあかん。分からないことがあれば、どんどん俺に聞いてくれていい」と言った。バントを失敗して一人でイライラしていた塩見に「チームは勝っている。一人で雰囲気を悪くするな」と怒ったこともある。きつい言い方だけど期待しているからこそ言った。
山田哲人が、厳しい言葉を口にする。温厚な山田からは、想像がつかないこの行動も、山田が自身にキャプテンという負荷をかけ、山田なりのキャプテン像を貫いた結果だ。
◇◆◇
日本シリーズ第5戦。
3勝1敗、今日勝てば日本一が決まるという天王山は、2対5と3点ビハインドで終盤8回裏の攻撃を迎えた。
やはり、簡単には勝たせてもらえない。オリックスファンは「#神戸に帰ろう」を合言葉に盛り上がっている。このまま神戸に帰れば、ヤクルトは劣勢になる。今日は高津臣吾の誕生日だ。最高の形で祝いたい。勝ちたい。
悲壮感漂う東京ドームで飛び出したのは、山田哲人の同点スリーランだった。
![](https://assets.st-note.com/img/1641826875664-rQcFW1LZcl.jpg?width=800)
山田哲人がベンチに向けたガッツポーズは、力強く、頼もしかった。キャプテン自らが引き寄せた渾身のホームランに、ヤクルトファンは涙した。
だからこそ勝ちたかったこの試合は、9回表、アダム・ジョーンズの逆転ホームランで落としてしまった。
震えるほど悔しい思いを抱え、帰宅後、録画を見直す。もう深夜。明日は普通に出勤だが、悔しくて眠れなかった。
そうしてたどり着いた、後半、山田のホームランに差し掛かったときの実況を、私は何度も巻き戻して繰り返し聞いた。
「人前でしゃべることが苦手だった山田が、いろんな人に声をかけて、セ・リーグチャンピオンになったヤクルトは、山田のチームです。狙い澄ますか、山田!」
実況は、フジテレビ・竹下陽平アナウンサー。
「山田のチームです」と言い切ったその瞬間に飛び出した同点スリーランに、竹下アナは「キターーーーーーーーーー!」と叫び、その後、山田がダイヤモンドを1周する間、無言を貫いた。いや、もしかしたら、感動の余韻に浸っていただけかもしれない。
「山田のチームです」。そのとおりだ。竹下アナは、ヤクルトファンだ。ヤクルトのことをよく知っている、球団に近い人だ。その人が言い切った「山田のチーム」の意味。
山田のチーム。そう言って余りあるキャプテンシーを発揮した、山田哲人。
厳しいことも言ってきた1年だった。しかし、それで崩れるようなチームではなかった。監督の言う「一枚岩のチームスワローズ」を導いたのは、優しさと厳しさを持ち合わせた、キャプテン・山田哲人だった。
素晴らしいキャプテンシーに、敬服します。
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