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Be ambitious!村上宗隆

初めての静岡草薙球場は、いつも中継で見ている印象と同じだった。試合開始は18時。芝の青が夕暮れに映える、豊かな景色の野球場だった。

明日はもう、仕事。最終の新幹線で帰らなければならない。静岡を堪能する時間もなかった。試合が長引けば、途中で帰る羽目になる。後ろ髪を引かれる思いで球場をあとにする自分を想像し、ぞっとする。

息詰まる投手戦なら、8時には終わるかも知れない。石川雅規ならあり得る話だ。でも、打たなきゃ勝てない。

どんな展開になるのだろう。3時間後には、結果が出ている。

◇◆◇

5回表。先頭打者のピッチャー、中日・松葉貴大のサードゴロを村上宗隆がファンブルし、出塁を許す。その後、ツーアウト3・2塁となったところで、バッテリーと内野陣がマウンドに集まった。

村上は、今日2つ目のエラーだった。2回表、ノーアウト満塁のピンチで堂上直倫のサードゴロを後逸。2点を献上してしまう。
4回裏、ホセ・オスナがタイムリーツーベースを放ち1点を返したが、なおも1点ビハインドの試合展開だった。

2つのエラーで、先発・石川雅規をピンチに追いやってしまった。責任を重く感じている村上は、マウンド会議に脱帽して向かった。

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しかし、マウンド会議は、あくまで戦略会議だ。ネクストバッターは、ダヤン・ビシエド。ここで追加点を与えるわけにはいかない。
村上は、石川に声を掛けるきっかけも与えられず、サードの守備位置に戻っていった。

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その後、ビシエドを申告敬遠。2アウト満塁とし、続くアリエル・マルティネスを空振り三振に仕留めた石川は、ガッツポーズをしながらベンチに引き上げる。
その石川の経路を塞ぐように待ち構えた村上は、石川に頭を下げた。村上のグローブに、自身のグローブを差し出した石川はそのとき、何か声を掛けたようにも見えたが、スタンドにその声は届かなかった。

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試合は、3対3の引き分けで終了した。時計は9時10分を過ぎていた。新幹線の時間まで、1時間。「ヒーローインタビューの写真は撮れないかな」という考えは杞憂に終わった。

急いでSIGMAのバズーカレンズをリュックにしまい、県総合運動場駅へ向かう。昨日今日と、マイNikonとレンズの装着がうまくいかなかった。

初めての静岡遠征。電車の混み具合、新静岡駅から静岡駅までの徒歩移動、きっぷ購入。時間を読めない焦りと不安を抑えながら、粛々とスケジュールを消化し、最終1本前の東京行き新幹線に乗ることができた。

東京へは、1時間程度で到着する。あっという間だ。「次の停車駅は、新横浜です」とアナウンスが入る。往路は三島駅に停まったが、静岡の次はもう関東だった。

東海道新幹線に乗るのは何年ぶりだろう。夜は富士山も見えない。いい球場だった。また来ようと感慨に浸りながら友人にLINEでメッセージを送っているうちに、もう東京駅だった。

「まもなく、東京駅に到着します」というアナウンスの前に流れたオルゴールに、思わず顔が上がった。

TOKIO「AMBITIOUS JAPAN!」

当初、JR東海のキャンペーンソングだったこの曲は、キャンペーン終了後も東海道新幹線の車内チャイムとして使われている。TOKIOが東海道新幹線と併走するCMも印象深い。

私は、TOKIOの曲の中で、この「AMBITIOUS JAPAN!」がいちばん好きだ。
明るいPOPなメロディラインと歌詞に、いつでも元気づけられる。だからつい、帰路の道すがら、誰もいないのをいいことに、マスクの中でずっと歌いながら歩いたのだった。


突き進めば希望(のぞみ)はかなう
立ち止まらない振り返らない
やるべきことをやるだけさ

ふいに、今日の村上宗隆が頭に浮かんだ。石川が勝ち星を上げられず、チームも引き分けた今日のような日は、ことさらあのエラーが重くのしかかっているのではないだろうか。

よく野球選手は「切り替える」という言葉を使う。今このときを、村上がどう過ごしているのか知る由もないが、この歌詞のように、立ち止まらず振り返らず、やるべきことをやっていけば、今日の試合もきっと野球人生の糧になる。一介のヤクルトファンでしかない私は、そう信じている。

突き進めば希望(のぞみ)はかなう。Be ambitious!我が友よ。勇者であれ。村上宗隆。

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