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勇気づけられる清水昇 ○T×S●6回戦

「勇気づけられる言葉」のストックは、最近増えていない。

インターネット上で出会った金言は、パソコンのデスクトップと、iPhoneのメモに続々と貼り付けられ、時として私の人生から見える風景を変える。

私という“ひと”が明らかに揺さぶられたのは、二十歳くらいのころにテレビで見た、無名塾の密着ドキュメントだった。
まさに無名の若手俳優たちが、与えられたエチュードを展開する稽古風景だった。隆巴、仲代達矢から、細かな“ダメだし”が入る。
他の塾生も見ている中、圧倒的な演出家に、ただ指導され続ける“無名”女優。授業中、先生に指されたときの、あの地獄の空間がよみがえってくる。
「絶対嫌だ」。しかも今日は、テレビカメラまで入っている。こんな叱られるところをいろんな人に見られるなんて耐えられない!よくできるな。そうハラハラしながら見ていたその時、その俳優は「緊張しないですか?」というインタビューにこう答えた。

「先生に見てもらえることは中々ないので、自分のためになることなので」

そこから、私は変わった。自分のために、恥を忍んで、いや、恥などと思わず、学びたいことをすべて先生に聞きまくり、叱責同様の指導も「はい!」と受け止めた。これほど勉強に食らいついた時期はなかった。
あの無名塾の無名俳優の、芝居に食らいつくあの言葉は、私の人生という道を変える道標となる「勇気づけられる言葉」だった。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「苦情が入った」と連絡があったのは、人事部署からだった。私の電話での受け答えが人を馬鹿にしている。そういうことだそうだ。そんな話を聞いても、「はぁ、そうですか」という乾いた感想しか出てこない。
コミュニケーションは、受け手側に決定権がある以上、私がいくら「人を馬鹿になどしていません」と主張したところで、空虚だ。
多分、さっき「出るところに出るからな」と恫喝を受けた相手だろうな。明らかに心はすり減っていた。

「申し訳ありません」。注意を受けて電話を切る。表情がないのが、鏡を見ずとも分かる。そんな私に、斜め向かいの上司が言った。

「あのね、それは“働いてる証拠”だよ。働いていない人は、電話にも出ない。電話に出なけりゃ、苦情も受けないでしょ?」

見ている人は見ている。そう実感することは少ない人生だった。そんな中で出会ったこの言葉もまた、私の人生を救う一言だった。それからの私は、歯を食いしばり、臆せず人の輪に入っていく力を出すことができるようになったと思う。この言葉もまさに、「勇気づけられる言葉」そのものだった。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

今日、清水昇は敗戦投手になった。話題になった11連続試合無失点の記録も、今日で途絶えた。

去年、即戦力として期待されながら、目立った成績を残せなかった、ドラ1ルーキー。1年、プロの舞台を経験して、学ぶこともたくさんあっただろう。成長したしみのぼくんの投げっぷりは、自信と活気にあふれた、スワローズの未来だった。
それは今日も変わらなかった。でも、相手が一枚上手だった。打ちこまれた後も、腕を振り、全力投球で1イニングを投げたしみのぼくんが、本日の責任投手だった。

私は、当時の上司と同じ言葉を、しみのぼくんに捧げたい。

投げないピッチャーは、打たれない。

今日打たれて、苦しんだことの意味は、そこにある。しみのぼくんは、マウンドにいる。現場で仕事をしている。だから、苦しいんだ。

そんな力強いピッチャー、清水昇に勇気づけられた今日は、まけほ。でもいいんだ。

「勇気づけられる清水昇」に出会えたから。しみのぼくん!

R2.7.16 thr.
T 6-4 S
阪神甲子園球場

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