山田哲人がつくった、チームスワローズ

山田哲人がキャプテンとなって初めてのシーズン。東京ヤクルトスワローズは優勝した。

10月26日火曜日。その前週に優勝は決まっているものだろうと高をくくっていた私を、野球の神様は見逃さなかった。
そんな尊大な態度のファンがいる球団を、そう簡単には勝たせてくれなかった。

こうなったら、意地でも“その瞬間”に居合わせよう。

横浜スタジアムでのビジター戦を、間際に売り出された「みらいチケット」を急遽購入した。普段はSIGMAの超望遠レンズと山田哲人の応燕タオルしか入れていない大型リュックに、新型コロナワクチン接種済証を入れ、仕事を早退した。

初めてのハマスタ。そして、「あんなところまでたどり着く自信、まったくない」と中継の度にぽかんと見つめていたレフト側のウイング席に向かう。
重車両並みの体重と膝痛を抱えるおばさんの体を運ぶために、ひたすら腿を上げる。最後列の一列前。よくやったと、自分を褒めた。

「天空の席」という代名詞そのもの。球場全体を鳥瞰的に眺める。普段、神宮の内野席から超望遠レンズで接写写真を撮る私にとって、満足のいく距離ではなかった。

試合は、ヤクルト勝利で終わり、ヤクルトのマジックは「1」となった。2位阪神の勝敗によっては、今日、優勝が決まるというそのとき、ハマスタで阪神甲子園球場の中継が放送された。ベイスターズ最終戦セレモニーの前に、甲子園のパブリックビューイングを行ってくれたのだ。

ヤクルト球団とヤクルトファンに対する配慮でもある。しかし、仮にセレモニー中の朗報にヤクルトファンが騒ぎでもしたら、大切なセレモニーが台無しになり、ヤクルトファンは反感を買うことになる。ベイスターズの2021年をしっかり締めくくれるように、この決断をしたベイスターズに感謝している。ありがとう、番長。

◇◆◇

この1年、私は神宮で、山田哲人のキャプテンシーにたくさん触れてきた。試合後の共同記者会見で、山田哲人が語った「キャプテンとしての思い」は、私が見てきたキャプテン山田哲人そのものだった。

——今日の優勝、キャプテンとしてどんな思いでいますか?
一番はホッとしています。

——2015年の優勝の時とはどんなところが違いますか?
どっちかというと2015年は、まだ一軍に出て2年目でしたし、自分のことで精いっぱいだったんですけど、今年はキャプテンをさせていただいて、周りを見ながら、2015年よりは視野を広くプレーできたのかな、と思いますし、そういうところが違うのかな、と。違ううれしさがあります。

——青木選手からのキャプテンとしてのお褒めの言葉もあったかと思いますけれども、そういった重圧はなかったですか?
青木さんからも「やりたいようにやっていいよ」とシーズンはじまる前から言われてましたし、僕も「困ったときには青木さんに頼らせてもらいます」とは伝えていたので、青木さんに何回も何回も助けられましたし、何かあった時には、青木さんがみんなを集めて一言チームを引き締める言葉を言っていただいたり、本当に、そういうところはまだまだ僕はできないなと思いながら、すごい尊敬しています。

——そして3年ぶりも30ホーマー、5年ぶりの100打点。バットでもチームをけん引しました。ご自身のここまでの活躍はどう受け止めていますか?
周りが期待する数字ではないとは思いますけれども、それでも自分にプレッシャーをかけながら、なんとか勝利に貢献できるプレーはたくさんできたのかな、とは思います。

「視野が広くなった」と自己評価をした、山田哲人。2015年、先輩に引っ張ってもらい、打ち、走り、ミスタートリプルスリーとなった。“野球をしていた”6年前と、チームメイトに寄り添い、対話をし、チーム全体を見渡してきた今年では、優勝の感じ方も違う。

キャプテンという役割が、山田哲人の行動を変えた。行動が変わることで、見えるものがあった。そして、山田哲人が引っ張るチームができあがった。

この優勝には、チームスワローズを一枚岩にした監督がいた。「絶対大丈夫」と選手に自信を持たせた。そんな頼りになる闘将に、「腹くくっていったれぃ!」と背中を押された選手たちは、グラウンドで浮つくことなく戦った。

そして、そのグラウンドには、打ち込まれたピッチャーの横に立ち、エラーした仲間に声をかけ、バッティングに悩む若者の背中に手を当てるキャプテンがいた。
全員が歩幅を合わせ、同じ方向を向き、戦う姿勢を崩すことなくシーズンを走り切ることができたのは、そんな、優しく強いキャプテンがいたからだ。

6年前のチームとは違う。山田哲人キャプテンがつくった、一枚岩のチームスワローズが、何より誇らしい。

そして、うれしい!優勝おめでとう!キャプテン!あなたのチームですよ!

——ここから闘いが続いていきます。なかなかタフな戦いになると思いますが、一言、意気込みをいただけますでしょうか。
ここまで来たら日本一になりたいので、とりあえずCS(クライマックスシリーズ)を勝ち抜いて、日本シリーズを勝てたらな、と。日本一になれたらな、と思います。

あとひと踏ん張り。頑張ろう。私も、頑張る。あなたがキャプテンだから、頑張れる。

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