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聞こえたか、スコット・マクガフを包み込むあの拍手の音が ○S×B●日本シリーズ2021第3戦

ホームを東京ドームに移しても、9回最後の守備に着く時に流れるテーマソングは変わらなかった。

『Blah Blah Blah』/アーミン・ヴァン・ブーレン

スワローズのリードで迎える9回に流れるこの曲で、球場は勝利への高揚感に包まれる。そして、その後に流れる登場曲で、今日の守護神を知ることになる。

『ライディーン』/イエロー・マジック・オーケストラ

スコット・マクガフの登場曲だ。私が子どものころに流行ったテクノポップ。マクガフが生まれる前の曲だ。だがこの曲で球場は一気に熱を帯び、盛り上がる。あとスリーアウトで、勝利を手にすることができるのだ。

マウンドで投球練習を始めたその時、スタジアムDJのパトリック・ユウがコールする。

「さぁ、勝利に向けて、9回のマウンドはもちろんこの人!スコット・マクガフ!」

今季、クローザーだった石山泰稚の不振を受け、クローザーを任されることになった。いわゆる「勝ちパターン」で登場するマクガフに課せられるのは、チームの勝利だ。
勝っている状況のまま、3アウトを取ってチームを勝たせる。マクガフは、それを3日前にできなかった。

2021年11月20日土曜日。日本シリーズ第1戦。3対1で迎えた最終回、マウンドに上がったのはやはり、マクガフだった。
しかし、マクガフは1アウトも取れず、まさかの逆転負け。京セラドームがサヨナラ勝利に沸く中、マクガフは静かにベンチへ引き上げた。

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前回登板から7日空き、感覚が戻らなかったのか。百戦錬磨のピッチャーでも、特別な短期決戦、しかも初戦という緊張感で平常心を失ったのか。

肩を落とすマクガフの背中を見るたびに、いつも思うことがある。

マクガフは、野球を好きでいられるのだろうか。

いくら野球という目的があれど、言葉も通じない、食文化も違う国で生活するストレスは計り知れない。
そして、助っ人外国人には育成期間がない。成績が悪ければ契約を更新されず、日本を去ることになる。

結果を残すこと。それが使命で至上命令という、厳しい状況に置かれている。勝って当たり前の結果を求められるマクガフが、日本を、ヤクルトを、野球を好きでいられるのか。

今日、パトリック・ユウの「スコット・マクガフ!」のコールに、東京ドームに大きな拍手が沸き起こった。
セーフティーリードとは言えない状況で、3日前に悪いイメージを残したマクガフの登板を後押しする拍手を、おかしいと思うだろうか。

今日のあの拍手は、厳しい状況で投げ続ける、日本のことが好きで、チームに溶け込み、仲間に慕われている、3日前に敗戦で傷ついたピッチャーを包み込む、ヤクルトファンの思いそのものなのだ。

聞こえたか。東京ドームの屋根に反響する、渾身の拍手の音が。

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