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山田哲人の「率いる覚悟」

2022年2月12日土曜日。沖縄・ANA BALL PARK 浦添(浦添市民球場)は、午前中に降った雨の影響で午後、使用不可となった。

「もうこっちではやらないんだって。警備員さんが言ってた」
そう情報交換をする女性たちの会話を聞きながら、望遠レンズをリュックに押し込む。

朝、受付に貼り出されたスケジュール表で確認したのは、「特守(内)1,58,60,023」の文字だった。

2年ぶりに山田哲人の特守を見られる。

私は、山田哲人の守備が好きだ。というより、送球が好きだ。力強く、ストライクを放る山田の送球技術に、いつも目がいってしまう。
ショートと比べ派手さに欠けるセカンドで、確実な打球処理と送球を繰り返す山田哲人の守備は、胸がすく。

次の特守はいつだろう。練習メニューはびっしり決まっている。私の滞在は明日まで。振替などあるのだろうか。

「サブグラでやってるらしいよ」。私を追い抜きながらスマホに話しかける女性の声が聞こえた。
そうか、その手があったか。もう山田哲人の特守を諦めていた私も、急いで移動する。
サブグラウンドを囲む人だかりの間を縫い、何とか場所を確保したときには、特守は佳境に入っているようだった。

「ハイ!」
かけ声とともに打球が飛ぶ。ノッカーは、コーチの森岡良介とブルペンキャッチャーの大塚淳。
長岡秀樹、武岡龍世、赤羽由紘、山田哲人の順に、ひたすら捕球を反復する。

一二塁間の捕球から、二塁ベースへの送球まで。繰り返し、繰り返し。ひたすら、繰り返し。

「ナイス!いいよー!」
ノッカー二人は、声が大きい。褒められ、つい笑みがこぼれる。それでもノックは延々と続く。

「ハイ!」
山田哲人も、大きな声で構える。

ハイ!@au3_plum

体が動けば、声も出る。しかし、ここまで声を響かせることはあっただろうか。

一緒にノックを受ける長岡秀樹、武岡龍世は3年目の20歳。赤羽由紘は独立リーグから育成契約をした2年目の21歳。
この若い3人と一緒に特守に臨む、キャリアも実績もある29歳の山田哲人。
連覇に向けた熱い思いと気迫が伝わってくる。

そして何より、若い選手の手本となること。技術に留まらず、若手に混じって自身を鍛える先輩の背中を見せて、育成する役割を担っている。
山田哲人を見て学ぶことができる球団。これはとても恵まれた環境だと思う。

山田が正月、地元・大阪の住吉神社へ奉納した絵馬に書いたのは、「率」。

昨季、チームを日本一に導いたキャプテンは、自身の成績に納得していなかった。
世界初4度目のトリプルスリーを達成するために「率」にこだわること、そして、その野球でチームを「率いる」こと。
チームメイトに寄り添い、チームを静かに見渡し導いた昨季から、更なる課題を自らに課した。

これが今季の、キャプテン山田哲人の覚悟だ。

送球が遅れた、山田。
森岡「今のは?」
赤羽「ノーゲッツーです!」
長岡「もういっちょ!」
山田「……もういっちょ!」

今年も「もういっちょ!」、いきましょう!キャプテン!

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