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それでも塁に出る 渡邉大樹

6月3日金曜日。交流戦も折り返し地点を過ぎ、4カード目の初戦を迎えていた。

思えば、北海道日本ハムファイターズとの死闘から始まった交流戦。楽天、ロッテと、これまでの3カードはすべて2勝1敗の辛勝で、どうにかすり抜けている。

この日も、5回裏、先発ピッチャー小川泰弘のソロホームランで入った1点が両チームの唯一の得点だった。
平日遅刻でその瞬間を見逃した、というより撮りはぐったことにイライラが止まらない。

この1点を死守することはもちろん、できたらもっと点がほしい。
そんな終盤、8回裏、2アウトから太田賢吾がレフト前ヒットで出塁する。
その太田に代走が出された。

渡邉大樹。専修大学松戸高校から2015年ドラフト6位で入団した、24歳だ。
渡邉は、足が速い。ヤクルトの選手は全員足が速いが、渡邉は中学時代、陸上200Mで全国大会に出場するほどの走力を持っている。

現在、代走からの守備固めという起用が多い渡邉は、今日も終盤のグラウンドに立った。
そして、次の打席、中村悠平への3球目に、盗塁を試みる。

その時、なんとヘッドスライディングで二塁に到達したのだ。

2022.6.3 fri. セカンドへ盗塁 @au3_plum

二盗のヘッドスライディングは、あまり見かけない。
どう間に合わせるかを考えたとき、一番有効な手段でセーフになればいいのなら、ヘッドスライディングがベストチョイスということもあるだろう。

しかしこれは、単に手段ではなく、今の渡邉大樹のすべてが詰まっているヘッドスライディングだったのだ。

5月25日水曜日。対北海道日本ハムファイターズ。
前日の交流戦初戦、ヤクルト不動の4番・村上宗隆のサヨナラホームランで士気の上がったヤクルトは、序盤からビハインドの苦しい試合展開を強いられていた。

3対4と1点ビハインドで迎えた8回裏、ヤクルトは山田哲人、ホセ・オスナの安打で1アウト1・3塁のチャンスを迎える。
そのオスナの代走として、いつものように渡邉が一塁についた。
しかしそこで、ファイターズのピッチャー・堀瑞輝の牽制でタッチアウトとなってしまったのだ。
監督がリクエストしたが、判定は覆らなかった。

2022.5.25 wed.みっくん牽制アウト!@au3_plum

打席にいたのは、青木宣親。
その青木がセンター前ヒットを放ち、三塁の山田がホームイン。何とか同点に追いついた。
流れを相手に渡さない青木は、さすがだ。

長打が出れば、足の速い渡邉はホームまで戻ってくる。当然、そのことを想定しての代走起用だった。
しかし、逆転のチャンスを広げるどころか、ランナーを減らし、アウトカウントを増やしてしまった。
実際、その次の内山壮真もレフト前ヒットを打っている。渡邉が“生きて”いれば、もう1点取れたかも知れない。

ベンチの渡邉の表情は、当然暗かった。
そして、イニングが終わりベンチに戻ってきた青木のもとへ、お礼とお詫びを伝えるために近寄っていった。

2022.6.3 fri. 青木を迎えるだいき @au3_plum

スタメン起用がない控え選手は、自分に与えられたワンポイントが仕事だ。
アピールする時間が極端に少ない中、チームの望むような結果を出し、何とか爪痕を残したいと頑張っている。

このチームのボスは、「失敗を恐れて委縮するのが、一番“やっちゃダメ”な野球」とはっきり打ち出している。
だから、たった一度の失敗で降格させることはしない。
「悔しい思いを、次にどう生かすか」。そういう野球を率先して行っている。

だから今日も、渡邉を代走に使った。気を遣っているわけでも、根気強く使い続けているわけでもない。
働け。自分のすべきこと、できることは何か、自分の足元を見つめて戦え。

その答えが、あのヘッドスライディングだった。

一枚岩で戦う。ヤクルトファンは、そういう野球を見ている。
だから私も、渡邉大樹のことを“そういう風に”応燕する。

戦え!

R4.6.3 fri.
S 1-0 L
明治神宮野球場

(2022/6/4 23:41初稿 一部改変・転載)

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