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ジョイが最後に見たものは ○C×S●3回戦

私は、野球のことは何も分からない。自分でしたこともない。だから、野球のことには口出ししない。

私は元々、経験値だけで語ろうとする助言には耳を傾けない。他人はよく、「やったこともないくせに」と経験者の助言だけを求めがちだが、私が人の助言を聞いてそう思うときは、相手がよっぽどその分野に関して不勉強なときだけだ。大切なのは、経験に左右されない勉強と、それを現場と重ねる想像力だと思っている。

だから、私が世界のトップレベルである日本野球について、“経験に左右されない勉強”をしていない以上、野球に対して口を挟める隙間などどこにもないわけだ。
何より、野球にモノ申したいときの多くは不平不満文句だ。自分が野球を楽しむために、自分の手が及ばない野球について口を挟まない。これが私の応燕スタイルだ。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

吉田大喜のプロ初登板は、2回1/3、5失点で、あっという間に終わってしまった。
今日はエンジョイするジョイのことを書けると思って見ていたが、そう上手く事は運ばなかった。
インターネット記事には「ほろ苦いデビュー」という文字が並ぶ。表現はこの定型句で合っているのだろう。ただ私は正直、ほろ苦いどころじゃなかったのではないかと思ってしまっている。

それは、吉田大喜の最後の1球だ。

初回2点を取られた吉田大喜は3回、先頭の菊池涼介からソロホームランを浴びる。続く堂林翔太、鈴木誠也が連続ヒットで出塁。未だノーアウト。嫌な流れだ。斎藤隆コーチがマウンドに向かう。高津臣吾監督がブルペンに電話をかけている。多分5回までは投げさせないだろう。
松山竜平のタイムリーヒットで5点ビハインドとなったあと、1アウトで迎えた會澤翼の当たりは、外野へのフライだった。

これで2アウトだ。あと一人、頑張れ。頑張って最後まで投げ切って。そう思ったそのとき、そのフライはスライディングしたレフト・青木宣親のグラブをかすめ、グラウンドに落ちた。センター・坂口智隆、ショート・エスコバーとの3人の間にあるボールを、エスキーが急いでつかみ送球する。3人のお見合いとなった落球に、エラーはつかなかった。

吉田大喜は、マウンドを降りた。

ベンチのジョイ。顔が汗で濡れている。座って、ペットボトルの水を口にする。高津臣吾が近づき、声をかける。帽子を取る、ジョイ。水を飲み、両手で頭をかいたあと、タオルに顔をうずめ、頭をわしゃわしゃと拭き続けた。もう表情を窺い知ることはできなかった。

あの場面で2アウトにしていれば、吉田大喜は少なくとも3回終了までは投げ切れていたかもしれない。いや、あの場面で中澤雅人交代していなければ、もっと打ち込まれ失点していたかもしれない。あのプレーがなくて2アウトにしたとしても、ベンチはあのタイミングで交代させていたかもしれない。

真相は分からない。ifを語ることなどできない。私はただ、吉田大喜がデビュー戦で最後に見た光景があのお見合いだったことが、辛くてたまらない。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

私は、野球のことは何も分からない。今日の反省点はきっといくらでもあるのだろう。それを振り返って、勉強、実践の繰り返しができるのは、現場にいる人だけで、私がしてやれることは何もない。だから何も言わない。いつもの私なら。

だけど今日は言わせてほしい。
デビュー戦で、吉田大喜が最後に見たものは、味方がボールを落としたあの光景だった。そのことを、どうかチーム皆で心に留めておいてほしい。

マウンドのジョイを、次こそ後押ししてやってくれ。今日のジョイの1アウトを、どうか取り返してくれ。

R2.7.17 fri.
C 9-2 S
マツダスタジアム

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