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ひとがいる野球場

今日のほっともっとフィールド神戸は、ざんざん降りの雨で中止となった。讀賣・岸田行倫とヤクルト・宮本丈の“雨の中のヘッドスライディング”を楽しんだ後、急いでファイターズの応援に駆けつける。今日はザッピングなしで応援できそうだ。
JSports3にチャンネルを変えると、ソーシャルディスタンスを保った観客で少し埋まったスタンドが映った。

今日は、有観客試合の開幕日だ。

昨日までのナゴヤドーム3連戦では、チャンステーマを鳴り物応援の代わりに流していた。神宮ではなかった久々の音楽と、ヤクルトの危機的状況にドキドキしていた。
今日の京セラドーム大阪は登場曲のみで、プレー中の音楽は流れない。これまで見てきた無観客試合にすっかり慣れてしまっているのか、それが普通の光景のように感じる。

その分、観客の拍手がよく聞こえる。5000人という少ない観客数でも、しっかりと手を叩くその音は、画面を通してはっきりと聞こえてきた。

8回裏オリックスの攻撃。1アウト2・3塁。3点ビハインドを一気に返せる状況で、男性の低くて野太い声が響く。応援なのか、ヤジなのか。なんと言ったか聞こえなかったが、場内は大ウケだ。タイミングを失ったバッターの伏見寅威がバッターボックスを外す。笑いながらざわつく場内。伏見が再度バッターボックスに入ると、大きな拍手と歓声が上がった。

1-3で迎えた9回裏の攻撃。ファイターズはマウンドにクローザー・秋吉亮を送る。ファイターズの守護神、勝ちパターンのクローザーとしてなくてはならない、秋吉。頼もしい。
しかし秋吉は、2アウトから二者連続フォアボールを出す。場内は2アウトまでの諦めムードから一転、盛り上がりを見せる。
秋吉が投げるごとに湧き上がる、拍手と歓声。9回裏2アウト1・2塁。追い込まれてから望みをつなぐこの対戦に、皆が注目し、ワクワクしていた。

結果、ロドリゲスの逆転サヨナラ3ランという劇的な展開で、ファイターズはサヨナラ負けを喫した。秋吉で負けるか。

ホームゲーム。最終回。2点ビハインド。ランナー2人。ドラマを構成する条件が整ったこの状況での、このオリックス劇場!球場にいたファンがうらやましい。
それは、オリックスファンだけでなく、ファイターズファンもだ。負けて悔しそうな自軍の選手を見て、ともに悔しがる。それもまた、野球応援の醍醐味なのだ。秋吉。また明日、球場で会おう。

いつものことだった。ひとが、ひとを応援する野球場は、日常だった。
それが奪われたたった数ヶ月を過ごして迎えた今日、そのことがどれだけ野球を形づくっていたかを思い知った。
今日の拍手と歓声は、かつての応援より、地味で、静かだった。歌はない。トランペットも太鼓もない。タオル折り折り応援もできない。それでも私は、スピーカーから流れる“音”じゃなく、ひとの息づかいを感じる野球に安心して、心ふるわせていた。

ひとがいる野球場。体温を感じた今日の中継を、私は忘れないと思う。

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