船に乗せたい人 森岡良介

2015年10月2日金曜日。対阪神戦プレーボール前の円陣で、森岡良介は不意にユニフォームをめくり腹をあらわにした。笑顔あふれるベンチサイド。

のちにそのめくったおなかには、当時のキャッチフレーズが書かれていたことを知った。

ヤクルトスタイル ヤクルトスマイル エイエイオー

モリスケがいて、明るくならない空気はない。シーズン終盤、神宮の風も冷たくなる季節まで頑張ってきた。そして、目の前には「優勝」の二文字。絶対に勝ちたい。何が何でも優勝したい。はやる気持ちが焦りに変わらないよう、力強くモリスケ流で盛り上げたその日、東京ヤクルトスワローズは、14年ぶりに優勝した。

当時、モリスケは選手会長だった。だから、あえてチームを元気づける行動を取ったのか。違う。モリスケは、ポジションに限らずキャプテンシーを発揮する、根っからのキャプテンなのだ。

優勝した2015年オフ、オリックス・バファローズから坂口智隆がやってきた。私は、オリックスの坂口を知らなかった。

坂口とモリスケは、同級生。坂口はオリックス、モリスケは中日の、ともに高校生ドラフト1位だった。ヤクルトの1位は、高井雄平。他に、オリックス時代の同僚・大引啓次、今浪隆博、中澤雅人と、1984年生まれの同級生が多い年代だった。

そんな中、移籍してきた坂口がチームに溶け込めるよう、おそろいのTシャツを作り、決起集会を開いたのは、モリスケだった。

自身も、中日を自由契約となり、ヤクルトに入団した過去がある。坂口の気持ちを汲んで、ともに闘う仲間として認め合う。そんな一歩を踏み出す行動を取れる人。それが、モリスケ。森岡良介という人だ。

「キャプテン」の意味を、いま一度調べてみる。チームの主将という意味もあるが、元々は「船長」という意味だ。

陸地を離れ、大海原に出ていく船には、その集団をまとめる人が必要だ。そしてその人は、航路を決め、安全に航海するという役割を担っている。

どんな船旅になるか分からない。大荒れの海を進まなければならないこともあるだろう。そんなとき、船に乗る人の命を預かり、船に乗せた全員を守り、導く。

モリスケは今、指導者になった。そして、選手を乱闘や言葉の刃から守ろうとしている。
そしてそれは、選手とファンを繋ぎ止める行動でもある。お互いに信頼を失わないよう、対話しようとしている。

乗組員は選手だけではない。ファンも船に乗せようとしている。そして皆が船から落ちないよう、必死に目配りをしている。

あなたがいるから、村上宗隆は安心してその船に乗ることができている。そして、私も。神宮に行くことがこれほど安心なのは、モリスケ!あなたがいるから。

ありがとう。モリスケ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?