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勝ちが消えたときのピッチャーは ●T×S○5回戦

今季から先発陣のひとりに名を連ねている新入団選手、ガブリエル・イノーア。
今日は今季4試合目の登板だった。前の3試合は、序盤に打ち込まれ失点を重ね、勝ち星に恵まれなかった。今日は、勝ちたい。

先発は、5回を投げ切ることが最低条件だ。なんの最低条件か。「勝利投手の権利を得る条件」だ。今一度、野球規則を見直す。

公式野球規則
9.00 記録に関する規則
9.17 勝投手・敗投手の決定
(a)ある投手の任務中、あるいは代打者または代走者と代わって退いた回に、自チームがリードを奪い、しかもそのリードが最後まで保たれた場合、その投手に勝投手の記録が与えられる。
(b)先発投手は、次の回数を完了しなければ勝投手の記録は与えられない。
 (1)勝チームの守備が6回以上の試合では5回。
 (2)勝チームの守備が5回(6回未満)の試合では4回。
(後略)

イノーアは、5回86球1失点。スコアは1-2と、1点リードで終了した。ここで降板しても、このリードを守り切れば、イノーアは勝利投手となる。6回表には、村上宗隆のタイムリーで2点追加し、1-4。イノーアを後押しする。開幕4戦目にしてようやく勝ちをつけるところまできた。

そう思ったその裏、阪神の攻撃。代わった長谷川宙輝が1点を献上。続くマクガフの押し出しフォアボールと犠牲フライの2失点で、4-4。試合は振り出しに戻ってしまった。

先発イノーアの、勝利投手の権利が消えたのだ。

勝ちたいベンチの気持ちはわかる。それはファンも同じだ。しかし、1アウトも取れずに交代した長谷川が気になる。若いピッチャーだ。傷ついて悔しくて、落ち込んでいるのではないか。これも大舞台の経験と思って、前を向いてほしい。
そう思っているとき、ヤクルトベンチが映し出される。

イノーアが、目の前を歩く長谷川の肩に手を置いていた。

話しかけている様子はない。長谷川も後ろを振り向かない。そこには、勝ち投手の権利があったピッチャーと、先発を勝ち投手にできなかったピッチャーの一瞬が映っているだけだった。

9回裏、阪神最後の攻撃の前に、桐山隆リポーターが両投手の談話として、阪神・ガルシアとともにイノーアのコメントを紹介した。

イノーア
—— 昨日から、キャッチャーの井野選手としっかり相談して、今日を迎えることができ、呼吸も合って、しっかり抑えることができました。

勝たせたかった。こんなことを聞いてしまったら、悔しさばかりが残ってしまう。

今日も、打の村上宗隆と、投の清水昇で、勝ちを勝ち取ったスワローズ。
ヤングスワローズの躍動が止まらない。未来あるスワローズに、私の笑顔も止まらない。

でも、それだけじゃない。
前日からバッテリーで対話をし、しっかり試合に備え、自分の勝ちが消えても若いピッチャーに寄り添える。
そんな誇り高き野球選手を応燕できることを実感した、そんなすわほの日だった。

勝ちが消えたときのピッチャーは、強くて、優しかった。

R2.7.15 wed.
T 5-6 S
阪神甲子園球場

イノーアに、次こそ勝利を。いのあさん!

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