2020_0621 パラノーマンズブギーEP4 あるいは レビュー
(全敬称略)
2020_0621 上演
ススキドミノ作
パラノーマンズブギーEP4 あるいは レビュー
総評
EP4に入ってますますキャラクター表現の高低差が際立ち
それに伴うインパクトも強化されています。
したがって、演者さんの演技も
『粘度のようなもの』が増して
より各キャラクターの深層部分を
削り出そうと試みたような表現が増えたと感じました。
まるで硬いチーズを熱で溶かしていくような
旨味たっぷりの上演を可能にしたのは
綿密に練られた(であろう)キャスティングにあると思います。
ようは、初見初聴でもキャラと声に違和感がないんですね。
もちろん演者さんの実力が前提なんですが
声と役の相性ってやっぱりあると思うんです。それがすごくかみ合っています。
全体図で言いますとクロスフェードの速度と頻度が上がって
物語もどんどん加速していきます
スピード感を失わせずにきっちりと押し上げている
演者さんたちの好演に拍手です。
速水:芥川どぽぽに関して
今回、今までにない速水の激情が聞けます。
ジュワッと広がる叫びは、決して単なる粗野でなく
やはりこの方の魅力であるノーブルさを保っています。
物語のキックオフで「ツヤのある部分」を
持って行ってしまうため
多くの共演者は、この方のトーンに
多少影響を受けているのではないのかなと。
優しく揺れるような声の出し方が癖になります。
田中:るふに関して
今回、出番はやや少ないんですけども
とても印象に残るシーンを鮮烈に演じられてます。
EP1で彼が醸していた空気感を思い出すとちょっと切ないですね。
ジョーカー的な立ち振る舞いのキャラクターだったため
ここにきて潰されて引き延ばされるような声を始めて聞いた気がします。
この人の苦悶の声も、苦しいのに美しくて実にひきこまれます。
でもやっぱり最後はいいところを持っていく。
シンイチロウくん、そういうところですよ?
まあ、とっちらかった友情をまとめるという
ある意味では大変な役とも言えますね。
酒井:ヒスイに関して
気持ちよく縦に避ける竹を連想させる声です。
非常に聴きやすく滑舌のお手本のような感があり
すっきりとした匂いが立つような台詞回しが実によく似合います。
「ちゃ・ちゅ・ちょ」の音なんかスマホの操作音にしたいくらい。
レビューに私情を乗せすぎるのもどうかと思うけど
私、この人にどっぷりと言葉責めされたいと思いました。
滑川も満更じゃなかっただろうこれ。ええ?どうなんだ?
スピード感もさることながら、次々に畳み掛ける声の使い方は
軍隊格闘技のように無駄がなく一気に相手にとどめを刺します。
癖の強いキャラクターをがっちり演じきられていて流石だと思いました。
花宮:KiRi❇︎に関して
この人、濁音を可愛らしくいじらしく表現するのが
べらぼうにうまいです。彼女の濁音は濁ってないです。
なんかこうアポストロフィーの親戚みたいなのが
星型についてるような声だと思います。
酒井と並んで響くと実に対照的ですね。
超高音の嬌声も、キャンキャンというよりは
湾曲させたシンバルのようにピャンピャンして聞こえます。
敢えて記号的な表現を積極的に選んで
その場面で求められているキャラクターを
しっかりと演じている感があります。
相手のセリフに食い気味で入っていく際の
タイミングも精緻で仕事人の趣さえあります。
泣きの演技も、きっちりと泣いてリズムは保ちつつ、
それでいてセリフとして聞きやすいギリギリの線を
攻めています。
七原:ユウト(摂氏零度)に関して
今回いつも以上に平均的な声の年齢を下げて
比較的重複しやすい若い男性の声の群から
実に上手に抜け出ています。
私、ポジショニングってめちゃくちゃ大事だと思うんですよ。
特にこういう大所帯ならば尚更。
しかし声の特性ばかりにライトを当てられると
あまりいい気持ちがしないですかね。
でもですね、この方はご自身の声の特性を
理解した上で立ち振る舞いに抜け目がないんです。
ご自身の強い個性をあくまで理解した上で
今回の上演では敢えてパッシヴな振る舞いに
軸足を置いたようにお見受けします。
結果として、他の演者が活き活きと
特性を発揮できたように思います。
そして、そのスタンスによってコツコツと溜められた
テンションが、終幕で大きく爆発するのは
とてつもないカタルシスでした。
滑川:くまた(摂氏零度)に関して
あのー、味付け濃いめのキャラクターを
少し砂が混じったような声で、これあれですね
しっかりとクセづけて演じてますね。
別の上演で、この方の嗚咽がびっくりするくらい美しい
というレビューを書いたんですが
それが転じて
グウゥフェ!と鳴る、引き笑いの怪しさは天下一品です。
このキャラの記号になるくらいの存在感でした。
ラブへの立ち振る舞いの、底抜けに頼りない感じなんかは
実はめちゃくちゃ表現が難しい領域だと思うんですけど
この人はその辺のさじ加減がとってもウマイです。
アクション場面で踏ん張るように絞り出す声は
彼の美しい嗚咽と同じ仕組みなのか?
敢えてこの表現を使いたいです。
「ビューティフォー」
大藤:ゆう兄に関して
久しぶりの復帰です。
ここまで音響として縁の下の力持ちでしたが
空席だったバリトンボイスで一気に存在感を示してます。
通常の穏やかな低音から意図的に
一段階深く潜ろうとした時の声が
この方の真髄というか、特に固有の魅力だと思います。
演技の強弱は比較的フラットな方だとお見受けしますが
Rの発音がちょっと特徴的でそれがいいフックになってます。
それからこの方、声に思っ切り力を込めて圧縮した際に
先述の一段深く潜る時と同じ独特の味が出ます。
劇中の人間をやめる時のように
これらを組み合わせると独特のキャラクターが立ちます。
ラブ:それいゆ(摂氏零度)に関して
ダクトテープを横に思い切り引っ張ったような
粘り気と圧のある声で奇怪な役を十二分に演じています。
この人の演技は年齢も体型も自在にコントロールします。
ナレーションで言うところの奇妙な笑い声を最適に演技します。
それでいて声は当人のそれとわかる。
これってすごくない?私はすごいと思う。
キャラクターと普遍性を両立するってすごくない?
今回の演技は実にキモくてエグいです。とても素敵だ。
後半なんか内圧で目玉が出そうな演技をしてます。
外連味のあるストーリーには
人ならぬ表現をするこういうおばけがいなきゃと改めて思いました。
N・うずら・警官・空港職員・野次馬・信徒:オルット3に関して
今回まさかの5役。
私のとってパラノーマンズブギーといえば
オルット3さんのナレーション。というくらいに馴染んでしまいました。
EP4まで来て気づいたのですが、
この台本のナレーションは
ナレーションでありながらナレーションでなく、
多種多様で色の濃いキャラクターたちが東奔西走しても
通底する世界観と独特の雰囲気が失われないための基礎のような役割があります。
存在感がありながら決して前に出過ぎず
演技と演技の間で忍者のように振る舞うオルット3、すごい。
movie アダツ 音響ガロ
今回もバックアップありがとうございました!
ガロさんの音響は攻めてて面白かったです。性格出ますね。
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