呪田屋事件(音響付下書き。読合後に修正)

(SE01:小雨の音)
京都某所の旅館の前。
近藤「ここが例の坂本龍馬がいるっていう旅館か」
沖田「ええ、そうみたいです。しかし二人だけで良かったんですか? いくら相手が一人といえど、坂本は妙な術を使うって噂ですよ」
近藤「そんな眉唾物の噂信じるな。さあ踏み込むぞ」
(SE01ここまで)
(SE02:引き戸を強く開ける音)
(SE03:踏み込む足音 2名分)

近藤「御用改めである! 坂本龍馬を差し出せ!」
(SE04:女性の悲鳴。沖田別録)
 旅館の店員が悲鳴を上げる。
 そして、無言で震えながら階段の上を指さす店員。
近藤「上か、協力感謝する」
(SE05:階段を駆け上がる音 2名分)
 階段を駆け上がる二人。
(SE06:襖を開く音)
 二階の部屋の戸を勢いよく開ける近藤。
近藤「坂本龍馬! 御用改めである! 大人しくお縄につけ!」
坂本「おお。怖やか。怖やか。そんなに血気立つ事ないんじゃないが?」
近藤「何を言う、討幕派の一派が!」
坂本「同じ国を思う同士じゃないが。ここは話し合いといかんぜよ?」
沖田「問答無用!」
(SE07:鯉口を切る音→抜刀の薄い金属音)
 刀を抜く沖田。
近藤「沖田! 先走るな!」
沖田「止めないで下さい! 近藤さん!」
(SE08:断空音)
 斬りかかる沖田。
坂本「おっと、噂の天才剣士さんか、こういうのはどうが?」
(SE09:呪文作動を示す効果音)
 呪文を唱える坂本。
(SE10:喀血が畳に垂れる音)
沖田「カハッ! 何をした坂本!」
 喀血する沖田。
坂本「呪術って知っちょうか? これは呪詛って言ってなぁ。まっこと便利なものよ」
近藤「怪しい技に手を出して! 何が国を思う者同士だ!」
坂本「これは由緒正しき技ぜよ。そこまで否定される筋合いはないで」
沖田「こんぐらい平気です近藤さん……早くコイツを打ちましょう」
近藤「仕方ない」
(SE11:鯉口を切る音→抜刀のやや厚い金属音)
 抜刀する近藤。
坂本「まっこと怖き事ぞね。これならどうや? ――オンキリキリソワカ」
(SE12:呪文作動を示す効果音、より重く厳かに)
近藤「身体が動かん!?」
坂本「密教の真言さね。悪しきを祓うき」
沖田「うおおおお!」
(SE08:断空音)
 沖田が口の端から血を流しながら坂本へ斬りかかる。
坂本「おっと。危ないぜよ」
(SE13:拳銃を構える音)
 さっと躱し銃を構える坂本。
坂本「やっぱり呪術より、こっちのが分かりやすいのかのお。しっかし呪術のが恐ろしいと思うんじゃが」
沖田「うるせぇよ。呪詛だろうが、銃だろうが、俺は刀を振るうだけだ!」
(SE14:連続して刀を振るう音)
坂本「血気盛んじゃのお。そろそろ病でくたばらんか?」
近藤「うおおお!」
(SE15:金縛りを打破する効果音)
 近藤が金縛りを自力で打ち破る。
坂本「なんじゃと!?」
近藤「誠の旗に誓った俺らの心意気を舐めるんじゃねぇ!」
沖田「行きましょう! 近藤さん!」
近藤「応よ! 沖田は銃を斬り落とせ! 俺は坂本の口を塞ぐ!」
(SE16:斬撃音、銃声、ごく僅かの差をつけて)
 斬撃の音と発砲音が同時に響く。
坂本「相打ちか……」
近藤「俺らの勝ちだ坂本」
 坂本に刺さる刀。
 確かに手応えはあった。
 しかし近藤の腹から硝煙が上がっている。
沖田「近藤さん!」
近藤「心配いらねぇ。かすり傷だ」
 そこで坂本が不適に笑う。
坂本「九字護身法って知っちょうか? 臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前って奴じゃ」
沖田「まさか今の一瞬で、それを唱えたって言うのか!?」
坂本「さてさて。お遊びもそろそろ終わりにしちょうか」
 坂本の姿が掻き消えて行く。
(SE17:環境音、モワッとした感じの)
沖田「逃げる気か!?」
坂本「隠形術。立派な呪術の一つじゃけぇ。恨んでな? まだおたくらとは決着を付ける時ではないと思ったぜよ」
近藤「何……?」
坂本「もう少しこの幕府の終わりを楽しもうや、なあ幕府の犬」
近藤「テメェ!」
(SE18:刀を投擲する空気音、壁に刺さる音)
 近藤が刀を振り投げた。
 それは虚空を抜けて壁に刺さった。
坂本「じゃあ生きてたらまた会おうや。新選組」
 そうして坂本は消えた。
(SE17ここで終わり)
沖田「逃がしましたね……大丈夫ですか近藤さん?」
近藤「……なあ沖田、俺らも呪術を覚えるべきだと思うか?」
沖田「何言うんです近藤さん! 俺らは刀振るってなんぼでしょ!」
近藤「悪い、血迷った。次こそは逃がさんぞ、坂本龍馬」
沖田「はい! その調子ですよ近藤さん!」
(以下ナレ:坂本)
 人を呪わば穴二つ。呪詛は伝播する。
 近藤が呪術に手を出すが、それはまた別のお話。

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