2020_0809劇団摂氏零度第5回本公演『痴人の愛』レビュー
2020_0809劇団摂氏零度第5回本公演『痴人の愛』レビュー
(全敬称略)
羽白深夜子 作
総評
眩しいくらいの若さの余白と
いつまでも響く切ない余韻が
なんとも言えない掌編でした。
構造的なテーマとしては
観客に、短時間の上演で
どれだけ鮮烈に強い印象を焼きつけられるのか
というところにあるのかなとさえ感じました。
この短さ、潔さが青春の儚さを
いっそう端的に強調していると感じました。
福田 陽菜:赤池つばさに関して
頬にうっすらと茜さすような
暖かい演技と台詞回し。
恋煩いの心地よくも苦しい
あの何とも言えない悦びを
ちゃんと香りたたせています。
口を尖らせて精一杯背伸びをしている
情景がありありと浮かびますね。
今回の赤池さんは若い福田の
愚直な想いをしっかりと表現している。
募りすぎた愛は少し誤れば憎悪になると言うことを
しっかりと含ませた慕情でした。
樋本 孝 :ユウトに関して
今回のこの方のお芝居には切り返しの妙があります。
それは瞬間的なキャラクターや
お芝居の早いスイッチングではなく
雪が溶けるようにゆっくりと
福田との距離感と立ち位置を
ファジーに変えていくところにあると思います。
最後に一瞬、教師ではなく異性としての
顔をカットインさせたセンスは見事だった。
野合 久信:くまたに関して
若い!過去に彼が演じた中で
最も若く芝居をしていました。
確かにこのくまたさんは高校生だと感じました。
若さゆえの拙さを上手に演じていると思います。
いつもの流暢な彼の芝居とは違う
情動を訥々と不器用に溢すような感じが実に青春ですよ。
この方、嗚咽が好きだと再三書いたが
声が出しきれない演技のときの苦み走った感じもいい。
高田 由紀:すてらに関して
冒頭、劇の立ち上げに
面倒見の良さそうなキレの良い女子を
快活に演じていましたが
今回の上演の若さと切なさのピークは
彼女のためにあると私は思います。
賢明な傍観者であることに
半ば耐えかねた演技は
これから訪れるであろう新しい展開を
否応なしにも予感させてくれました。
ごくごくわずかな出演時間でも
しっかりと物語に楔を打ち込んだ
職人技のようなお芝居に拍手を送りたいです。
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