2020_0714妖狐の婿取りレビュー
2020_0714 妖狐の婿取り
ちえ作
(全敬称略)
総評
昔めかした物語の空気感をしっかりと描ききっています。
台本の世界観もしっかりしていて
そこに徹し切れる役者が乗ると
ファンタジーとリアリティは相反せずに
両立することを証明していると思いました。
現代劇ではあまり耳にしない言葉が多かったのですが
それらのニュアンスとイントネーションは
とても自然で現実に引き戻されることはありませんでした。
日本語の美しい響きは運用にちょっとしたリスクがあり
それは『少しでも雑に扱うと一気に興が醒める』点だと
私は思うのですがこの二人の芝居は最後まで
繊細で美麗な言葉を紡いでいました。
そんな二人の役者の演技は
ほの暖かく聞き手を和ませます。
癒すのではなく、和ませるのです。
とても良い上演だったので
あえて無茶を言わせていただきたい。
両役者ともに2回ずつ噛んだ。
そこ以外に気になる部分がない、とてもいいお芝居でした。
この品質で、完全なノーミス版を聞きたいと強く思いました。
それくらい、良かったです。
九郎:それいゆ(摂氏零度)に関して
持ち前の厚みのある声を
今回はあえて洗練させずに潰してきました。
煌びやかな刀ではなく泥臭い鍬を以って
土着の風俗感を立ち上げています。
赤池さんの演じる妖狐は徹底して清く澄ませてあるため
これぐらい強く汚さないと劇に
匂いのようなものが立たないように思いました。
キャラクターゆえの時代がかかった台詞回しも
軽薄にならず、本当に存在感がありました。
一人芝居で場面を進めていく際の安定感と余裕はさすがです。
いつか漁師町でよく聞いた、悪意のない粗っぽさを思い出しました。
妖狐:赤池つばさ(摂氏零度)に関して
柔らかく高い音を選んで役を作っていました。
挙手挙動所作全てが匂い立つような上品さ、
逆にいうとやや過剰なくらいの色気ばんだ感じも
劇にとてもよくハマっていました。
九郎の泥臭いゴツゴツした声と
完全に対比ができるような形になっていました。
簪の飾りのようなしゃらしゃらとした声を
ここまで滑らかに出せる人はあまり多くないのでは?
この手の表現は、どうしても華美になって嫌味が
出てきてしまうものですが上手く抜くところは抜いて
品のある清楚さを崩していません。
長く難しいセリフが多い中でも、しっかりと演じていました。
この人ほどの引き出しと創意と意欲があるのならば
長く説明的になりがちなセリフも、もっと攻めて色をつけて
演じても良い方向に行くのではないかと感じます。
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