2020_0623 曽根崎心中レビュー
(全敬称略)
2020_0623 曽根崎心中
羽白深夜子 作
総評
気だるげで退廃的な空気の中に
底暖かい友情を味わえる……
かのような罠が仕掛けられています。
演者の二人が本当の友達のように
距離感を縮めている……
かのような錯覚を楽しめます。
距離感を縮めてどんどん二人の世界を
小さくしていくのですが
近づいて近づいて、くっつくかと思った瞬間に
ギリギリで交差してしまうこのバランス感。
冒頭の雰囲気をじわじわと侵食して
結末で舞台が大回転します。
短い台本ながら全身に強烈に回る毒のよう。
いたずらに派手ではないリアリティのある演技。
一対一という構図の上、摺り足で動いていく駆け引きの妙は
強烈にして鮮烈。
志乃:月宮はるに関して
この方の喋り声は語尾が柔らかく収束する傾向にあり
総じて包み込むような声をしています。
劇が始まるとその収束を意図的に解くようにして
奔放な気配を辺りに漂わせます。
この人の「ツ」の音がとても良いです。
サシスセソと同じくらいツの音というのは
処理が難しく往往にして荒くなるものですが
この人のツは尖ってないんですね。
ひらがなの「つ」の方です。
そして、フワフワと漂わせていた柔らかさが
終幕一瞬の一言で途轍もない毒気に変わるのはお見事。
テンションの落差とか表現の温度差などと言いますが
この人の『転換』は気付いた時には死んでるタイプのやつです。
さながら北斗神拳。
葉奈:赤池つばさに関して
この人の喋り声も月宮さんと同じで柔らかいのだが
包み込むのではなくゆっくりと沈む傾向にあります。
そして、劇が始まるとゆっくりではなく一気に沈みます。
沈むというより、彼女が沈めているのでしょう。
声の輪郭自体はプックリと可愛らしくしているのですが
この声を沈めるような技法によって
独特の雰囲気と陰を描いています。
逆に、諭すような台詞回しの時は
意図的にブレス量を増やして
沈ませた声を気泡で浮かばせているようです。
終幕に向けて、どんどん
この気泡が口から出ていってしまい
息苦しく窒息しそうになるような演技は
志乃の毒に冒されていくようで
素晴らしい解釈だと思いました。
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