2020_0613 斯くして王は供物を喰った レビュー

(全て敬称略)

劇団 摂氏零度 公演 2020_0613
「斯くして王は供物を喰った / 羽白 深夜子」

演劇とは神の為にある化粧箱だと、彼女は言った。

総評

高密度、高速、高回転で進んでいく物語。
全員の演技の熱量が高いため
比較的重くリアリティのあるテーマでも
決して興醒めることなくグイグイ引き込んでいきます。

音響は積極的にオンボーカルの曲を選び
声の演技への干渉を恐れず積極的に世界観を提案しています。
上げられたハードルを飛び越えるどころか
踏み台にして加速していく演技の応酬。

硬軟自在で散文的な美しさを讃える台本
間を恐れず表現に貪欲で殺気を放つ演者
混ざり濁ることを敢えて良しとした勇敢な演出

全パートに狂気的な姿勢と
それゆえに放たれる魅力があります。お見事でした。

通常、各役各演者ごとに
私見を述べるのですけども
この作品に関しては分離が難しいです。

出演者たちは密に絡み合い
個でありながら全となっているため、
個別にキャラクターを述べることが裏目になるように思います。

それぞれが全く違うカラーを持ちながら
一人ずつに分けて述べることがとても難しい。
完全に作品として癒着してしまっています。
もちろん、褒め言葉です。

間鳥蒼士(まとりそうし) : それいゆ に関して

過剰に強調した演技臭さや声が先行するような
感じはなく、全編にわたって
非常に求心力の高い演技をされていると思いました。
透明度が高く、底は深い海のようです。
とにかく圧巻。最後まですごい。
語彙力がついていかないから流してください。

高崎琴子(たかさきことこ): 羽白 深夜子に関して

たおやかな声だなぁとか言葉が柔らかいなぁとか
ありがちな感想はまあ色々あるのだけど
この子の「ありがとう。」に
彼女の魅力と危うさが全て詰まっていると思った。

彼女の魅力は特に乱れている時にあって
それはプレゼントを包んだ紐を解くみたいに
平常を失った時に光るのでしょう。
泣き崩れる演技なんて蛹の羽化のようでした。

外川雪子(とがわゆきこ) :すてら に関して

台本を逸脱することなく、台本の中から
本当の役のセリフを抽出していると思いました
声に、相手をリードする強さがあり
雰囲気の中心を作る器量があると感じます。

森永千紗(もりながちさ) : 赤池つばさに関して

今作の登場人物の中で一番
ファニーで柔らかい声と演技。
音のアタックが柔らかく愛らしいのだが
声の粒感がしっかりと立っているため
他の演者の低めのトーンと交差しても違和感がありませんでした。

白来冬哉(はくらいとうや): アルコに関して

声の揺れ、震えが非常にセクシーな人だと思った。
ブレスを意図的に多く含ませていて
少し湿り気のある演技が印象に残る。
差別化を図る上での不安定さを演じているように感じた。
声の表現に非常に長けた人だと思う。

榎本成司(えのもとせいじ): くまたに関して

鼻につく感じの甘さでなく奥で甘い
ゆっくりとした声が印象に残る。
演技面では相手のペースに寄り添うような
余裕と配慮が漂う。
グイグイ行くタイプではなく、脇から
雰囲気を作る試合巧者の感がある。

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