10/24 生声劇<GCP>レポート

10月24日土曜日
都内某所で、自主企画の生声劇を開催しました。

生声劇とは、通常はツイキャスやボイコネ、
あるいはディスコードなどのツールを用いて
オンラインで行う声劇を
敢えてオフラインで、顔を合わせてやってみようという
ただそれだけの実にシンプルな企画です。
ここからはレポート風に書き上げていきます。

企画と告知

私はもとより勢いで生きている節があって
この人生の九分九厘は勢いでできている。
役者でも作者でもないのにこの界隈にいるのも
毎晩取り憑かれたようにお芝居をする皆さんの
勢いと、伴う熱量が大好きだからである。

あー、これ(声劇)生で観たいな(聞きたいな)

前々から考えてはいた。

新型コロナウイルスの騒動で
この一年企画らしい企画は軒並み潰されてきたが
国を挙げてGOTOトラベルONEMORE経済と
煽り出した今、三密を回避した上で
安全に配慮すれば実現は不可能じゃないのではないだろうか。

勢いでTwitterに告知を出した。
何人集めるとか、場所はどこがいいとか
演目は何か、とかその段階では
別に何も考えていなかった。

「都民じゃないからいけないけど近隣なら参加したい」
「権利関係はこうした方がいいと思うよ」
「この台本オススメです」

ありがたいことに、告知と同時に
多くのアドバイスと励ましのリプライを頂いた。

すぐに都内某所の小さなスタジオを抑えた。
ここの面積なら私を入れて5人くらいまでなら
ソーシャルディスタンスを余裕で確保できる。

募集人数は4人。このくらいの数字が
人と人の化学反応を楽しむならベストだと思った。
問題は人が集まるかどうかである。

さて、ポシャるかなぁ……。

もし誰もこなけりゃ、スタジオで筋トレでもしてよう。
1人でも来たら飲みに行こう。
2人来たらサシの芝居をやってもらおう。
3人来たら、ま、御の字よね。

最悪の事態を想定していたが
ありがたいことに募集は一日で埋まった。

「な〜んも決めてないんだけどォ、生で声劇やるからこない?」

まともに考えれば多少は尻込み、熟考するであろう
こんな雑な誘いにホイホイ乗ってくる熱狂的な4人が揃った。
その日は、ちょっと高いワインを飲んだ。

当日、山手線に揺られて

台本はススキドミノさんの名作GCPをお借りした。

「あなたの役はこれです」

と、配役は全て私の一存で決めさせてもらった。

このような実験的な運用に快く許可をくださった
作者のススキドミノさんにはこの場をお借りして
お礼申し上げたい。

その節はありがとうございました。

段取りが決まった後は当日を待つのみとなった。
山手線に揺られながら不思議な気持ちを味わった。

それは、初対面の人間と会う緊張感ではない。
こんな吹けば飛ぶような勢いだけの企画に
全力で乗っかってくる奴らと会える喜び。

知らない国への旅行とも初めてのデートとも異なる
昔の悪友とちょっと飲みに行くような感覚だった。

Google Mapによるとスタジオ最寄駅の近くに
ダイソーがあるはずなので
そこでちょっとした小道具を買おうと思った。

おもちゃのピストル四丁。この芝居の象徴だと思う。

最寄駅についた私は見事な浮かれっぷりを発揮し、
目的の方向とは真逆に突き進むこととなる。

あれ?徒歩5分にしてはあまりに遠いぞ、
つうかダイソーないじゃん……?

ちゃんと地図を確認したところ
真逆に15分ほどワシワシと進んでいた。

手元の時計は17:40を指している。

あれ、やべえ間に合わねえ。つーか俺いねえと開場ができねえ。

そんなこんなで夕方の早稲田通りを全力でダッシュした。

ここ最近で一番走ったように思う。不思議と脚は動いた。
最近中折れが……とか言ってられないくらい走った。

怖いもの知らずな熱狂者、狂信者相手に
主宰が遅刻なんてしようものならば
その場で首を刎ねられても文句は言えないのである。

開場時刻十分前、なんとかたどり着いたスタジオの
すぐ手前にスーパーのSEIYUがあった。

「ここなら小道具があるかもしれない」

勢いで生きているので、直感を信じて飛び込んだ。

階段を駆け上がり、気怠げな店員に
「ピストルありますか!おもちゃの!音が出るやつ!」
と息も絶え絶えに尋ねた。

店員は困ったような顔をして玩具コーナーを指差した。

吊るしてあったのは水鉄砲だった。
それも、カラフルでサイバーなやつ。SFか。

私はウェルカムドリンクを買い込み、
開き直ってスタジオに向かった。

余談だが、ウェルカムドリンクは
ハイネケンと相場が決まっている。

ミッシェルガンエレファントで育った世代なら
絶対にわかるし、わからなくてもそうしなさい。

レディ役 那町祐九に関して

18:01開場です、と告知していたところ
那町は本当に18:01に来た。
とても好感のもてる青年だった。

彼をレディ役に抜擢したのは
過去の芝居(落語)を聴いて
女言葉やくるわ言葉をやらせたら
絶対に上手いという確信があったからだ。

事実、那町は上演中完全にレディになりきっていた。
あくまで、声のお芝居なのだから
ゼスチャーをつけようがつけまいがそれは自由だが
彼の振る舞いからは二丁目の匂いがした。

そしてその所作が、現場にとてつもない没入感を生み出し
エリートはエリートに、ピエロはピエロに、
ガールはガールにより一層入っていくことができたのだと思う。

場を要したのは私だが、この一幕に火をつけたのは彼だ。

エリート役 ガロに関して

ガロは18:02くらいに来た。
彼もまた好感のもてる青年だな……と思いきや
大御所の余裕をぶちかましてくれた。

開幕は18:30だったのでまだ時間に余裕がある。
まだ場が暖まりきらず
さながら風俗の待合室のような空気になっていたので
私はチャーミーに声をかけた。

「大丈夫なの〜二人で打ち合わせとかしなくて」

「ええ。いつもこうなんで」

パイプ椅子にどっしりと腰掛ける様は
まさに大御所の余裕だった。

誤解のないように書いておくが、私には
芸事にはこういう余裕がないと芸がハネない
という持論がある。

余裕綽綽で臨んでくれる役者が一人くらいいないと
外連味が出ないというか、ちょっと詰まり気味になる。

実際の演技では本当に大御所の余裕を生かして
この四人芝居を安定して突き上げてくれた。

レディにピエロに、後半のガールに
乱気流に上がったり下がったりするテンションを
太く強いワイヤーで縛った。

ちなみに、彼の声はスピーカー越しで聴くよりも
臨場した方が何倍も好い。

これは発声の仕方や、声の性質の影響だと思うが
アンプラグドだと一気にクリアになり
演技のダイナミックさが増す。

ガール役 あお@ストーリーを紡ぐ人に関して

めまいがするほどキャラの濃い男性三役の中
紅一点でガールとして参加していただいた
あおは到着当初は、緊張が見て取れた。

状況と環境を考えれば当然すぎるほど当然なのだが
勇気を持って参加してくれて本当にありがたかった。

最初は少し身構えた感があったが
作品が進むにつれて誰よりも変性していく感があった。

彼女の演技はとても情緒的で
ただただヒステリックに叫ぶのではなく
強く大きく揺れる中にも独特の柔らかさがあった。

アクの強いレディとピエロ
音が低く強いエリートの三人を相手どって
決して負けてなかったのは凄いと思う。

ピエロ役 PARCOに関して

期待の新人、PARCOは開演時間ギリギリに滑り込んできた。

「PARCOが来なかった場合の兼役をどちらがやるか」
というやりとりに大分真実味が出てきたタイミングでの到着だった。

期待の新人PARCOは演劇経験ゼロの本当にピュアな新人だった。
初めてのお芝居で緊張してます!とのことで
到着して一言目の言葉は「斯波ァ、タバコ吸いに行こうぜ!」だったのは
そのあらわれだろう。

狂言回したるピエロを完璧に演じきってくれた。
演劇経験ゼロの本当にピュアな新人だが
声量・音圧・迫力はダントツに高く
その技量をもってして劇を引っ張ってくれるのだから
後の三人は否が応でも昂るしかない。

ちなみに、このレビューは到着順で書いている。

音響・撮影 Ryo スペシャル・サンクス

SRRSのドラムのRyoさんが今回観客として参加された。
観客参加なのに
「録音と録画お願いできませんか」
という、私の無茶なお願いを聴いてくださった。
その手際の良さはさすが本職、粛々と録音録画を済まし
あとは静かに劇に没頭されていた。

好いお客である。

関係ないが、Ryoさんはハイボールを両手に持つ。

両手で持つ、ではない。左右にそれぞれジョッキを持ち
それをバンバン飲んでいく。修羅か。

さすがは音楽傭兵であり、ロックバンドのドラマーだと思った。

終わりに

お芝居はあっという間に終わりました。

時間感覚が湾曲するくらい
本当にたった9畳の小さなスタジオが
あのモーテルに変わっていた、と私は感じました。

で、なんでこういう企画をするのか、っていうと
極論したら私が自分のハートに火をつけたいからなんですよ。
カッコつけてるわけじゃなくて、マジで。人生って短いですから。

この界隈、
付けて欲しい人、付けたい人、たくさんいるんじゃないかなと思ってます。
一緒に火遊びしませんか!

液晶を押し除けて、顔を見ながら全員で没入するって
きっと死ぬほど楽しいし、明日からのあなたの何かをちょっとだけ
変えてくれると思うんですよ。そこに魅力を感じてくれる人が
今回来てくれたのかなって思ってます。

また次もやる予定なんで、参加してくださいね。
お読みくださりありがとうございました。

参加者の皆様
原作者様
ご支援くださいました関係者皆様に
心よりアツく感謝申し上げます。

斯波龍太郎 拝





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