リハビリテーションにおける目標設定Report No,3『目標設定に関連する意思決定』
先週、先々週に引き続き、リハビリテーションにおける目標設定について綴っていきます。
今回は、『目標設定に関連する意思決定』という内容でまとめております。特に当事者の方の意思決定をする上で必要な要素は何があるのか分からないとこちらも対応に難渋します。
是非、最後までご一読いただき、改めて自己に疑問を投げかけていただければ幸いです。
1.意思決定に関わるバイアス
皆様は普段の臨床で多くの意思決定を行っていると思います。例えば、患者を評価し最良の治療法を決めるとき、予後予測から患者の目標を決めるときなどが挙げられます。
そのときに、自分の思考の癖を考えたことはありますか?
思考過程には直感的な判断をするシステム1と情報を吟味して判断するシステム2があります。医療現場においては、システム2の思考が必要と考えられていますが、そこには多くのバイアス*1が潜んでいます。代表的なものには以下のものがあります 1)。
1.ヒューリスティックス
2.プロスペクト理論
3.後知恵バイアス
4.確証バイアス
5.サンクコストバイアス
6.現状維持バイアス
7.ハロー効果
8.アンカリング効果
ヒューリスティックスとは、短絡的思考と言われており、目の前の情報からとっさに医療者の都合のいいような解釈をして治療法等を提供してしまうことが当てはまります。
確証バイアスは、医療現場で多く経験するバイアスだと思います。自分の主張を支持する情報を積極的に取り入れることがこれに当たる。
現状維持バイアスは、今まで自分が実施していた治療法に固執し、新たな治療技術を否定することがこれに当たる。
アンカリングは、ある参照点で経験したことがその後の意思決定に影響することが当てはまります。
以上のように、意思決定には多くのバイアスが潜んでおり、医療現場のスタッフは定期的に自分や組織のコミュニケーションを振り返る機会を持つと良いと思います。
*1:思考や判断の偏り。統計学的には結果をある方向に歪めてしまうものと言われています。
2.目標設定において意思決定に必要な要素は?
意思決定には多くのバイアスが潜んでいるとお伝えしました。患者-療法士間でバイアスを吟味しながら、goal-based SDMという意思決定手法を用いて目標設定していくことが重要です。
goal-based SDMでは患者の意思決定を療法士が支援していきますが、そもそも目の前の患者が意思決定をできる状態なのか?という疑問がでます。
そこで、患者が意思決定するために必要な要素にはどのようなものがあるのかを調査した研究を紹介します 2)。
これは、医師と患者にインタビュー調査をした研究で、SDMに対する患者の準備として以下の5つが挙げられていました。
1.SDMに対する理解・態度
2.ヘルスリテラシー
3.コミュニケーションと質問力
4.自己認識
5.思考力
まずは、なぜ患者自身が意思決定することが重要なのかを理解している必要があります。次に、患者が自分自身の病気や健康に対する基本的な知識を持ち、自分自身で情報収集ができることが必要です。次に、患者自身が自分の価値観や希望、目標を認識しており、それを言語化し表現することができる必要があります。
いかがですか?これらすべてができる患者はそういないと思います。
つまり、療法士が患者の意思決定の準備も支援する必要があります。
そのためには、患者のヘルスリテラシー・コミュニケーション力の吟味、適切な情報提供・理解の確認、価値観や希望の可視化が重要となります。
3.価値観の可視化
患者の目標は複数存在することがほとんどだと思います。
例えば「腰の痛みをどうにかしたい」「足のしびれを良くしたい」「痛みなく歩きたい」「買い物に行きたい」「旅行に行きたい」「孫に会いに行きたい」など多岐にわたります。
では、これらの目標の関連性は?患者にとって目標の優先度はどうなの?という疑問がでるかと思います。
そのときに、目標の優先順位や価値観を可視化するのに便利なツールとして、Goal Board 3)が考案されている。
これは、目標の優先度を高、中、低でわけ、それぞれに対する治療の選択肢と効果を利用者と療法士が共有できます。患者も「なぜこの目標が重要なのか」を考える機会になり、療法士も患者の価値観を共有できメリットが大きいです。
4.まとめ
今回は『目標設定に関連する意思決定』というテーマで、意思決定に関わるバイアス、目標を決めるために必要な要素、価値観の可視化についてまとめさせていただきました。
普段何気なく行っている意思決定には、その人特有の癖があります。まずは、自分の意思決定の癖を考えてみてはいかがでしょうか。
人には多くのバイアスがあるという前提で、目の前の患者の目標設定に望み、バイアスを吟味した上で、患者の価値観を反映させた目標を決めていきましょう。
次回のセミナーではGoal Boardを使用したワークショップを企画しています。是非、ご参加ください。
参考文献
1)藤本修平, 竹林崇(編):PT・OT・STのための臨床に活かすエビデンスと意思決定の考えかた. 医学書院. 2020.
2)Keiji SM, et al. What makes patient ready for Shared Decision Making? A qualitative study. Patient Educ Couns. 2020.
3)Elwyn G, et al. Goal-Based Shared Decision-Making: Developing an Integrated Model. J Patient Exp. 2020; 7(5): 688-696.
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