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ホトケは海からやってくる。

いつもは来客のお迎えでやってくる早朝の港ですが、今朝は別のお迎えで朝7時に港へ行きました。

島の誰かが亡くなると、葬儀屋のないシマ島では盛大な葬儀フェスが行われて大騒ぎになる、という話を以前「真夜中、黒いエプロン隊。」でご紹介しましたが、島の人が島外の大きな病院や老人ホームなどの施設で亡くなった場合、フェスは港からスタートすることが多くなります。

亡くなった方が島外で火葬された場合は、お骨になってから島に帰ってくるので通夜から始まるのですが、火葬されずに帰ってくる場合、ご遺体、つまり「ホトケさま」は船で運ばれてくることになります。

そうするとシマ島では昔からの風習で、島の人々が港で待ち構え、船から降りてくる「ホトケさまをお迎え」するというセレモニーが行われるのです。

港でのお迎えをするのは、ご遺体を運ぶ男性陣と、親類縁者とごく親しい関係者で、これまでいくつも葬儀フェスの修羅場を潜り抜けてきたわたしも、お迎えだけは経験がありませんでした。

今回亡くなったのは、ザビ男の同級生のお母さん。葬儀フェス参列必須の間柄です。ただ今回は関係者が多いということでフェスには呼ばれなさそうということで

「いい機会だから、お迎えに行ってみなよ。顔出しておけば、みんな見てるし。なにごとも経験だから」

とザビ男に言われ、ふたりでお迎えに行くことにしたのです。

現場でどうしたらいいの?と聞いても「ただ見守っていればいいから」とザビ男。まあ一人じゃないからいっか、と思って早朝7時に港へ出かけたのですが、港の駐車場で

「ザビ!ザビ!男手足りないから、来いよ!」

とザビ男がいきなり男性陣に拉致られてしまいました。

ウンこうなることはわかってたよウンウン

一人取り残された港で観光客と宿の出迎えの間をすり抜け、「ホトケさんのお迎え」ぽい集団を嗅ぎ分けてこっそり最後尾にしのびこみました。

しばらくすると、タラップから棺桶に入ったホトケさまが下りてくるのが見えて、誰からともなく集団がざざっとタラップの周りに集結しました。その向かいに喪主と家族がずらりと整列し、あいさつのような話をし始めます。

貨物を上げ下ろししている船の横ですから、何言ってるのかさっぱり聞こえません。聞こえないけど神妙な顔でみんな聞き入っているので、わたしもそれっぽくして聞き入りました。

しばらくすると、再び誰からともなく帰り始めました。どうやらセレモニーは終わったようです。その30分後には、なにごともなかったように職場の仕事が始まりました。

シマ島での生活は、こんな風に「作法がまったくわからない場所へ放り込まれる」ことの連続で、わたしもだいぶ肝が据わってきました。

ちなみにシマ島では「ホトケさまが乗っている船は、何があっても港に着ける」と言われていて、島外から船に乗るときに「今日はホトケさんが乗っているらしい」という情報が入った場合はどんなに悪天候で着くかどうかわからないと言われても、乗ります。

ホトケさまがいれば欠航しない伝説、いまのところ100%。



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