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<4>その恋は待ったなしだから、出会ったら走れ。

じじょうくみこが誕生して、この5月で丸10年。というわけで勝手に生誕記念⁉でウェブマガジン「どうする?Over40」に連載していた処女作の「崖っぷちほどいい天気」をこちらに転載しております。

本日は第4回目。5月11日の初回から週1でこのボリューム書いていたと思うと、フルタイムで仕事しながらよくやっておったなと我ながらビビります。
それだけ四十路独女として叫びたいことがあったんですよねえ。今では四十路独女も世間であまり驚かれなくなりましたが、10年経っても独女の悩みはあまり変わってないような気もします。

それでは、どうぞ~。

*** 2013年6月1日の記事***

その恋は待ったなしだから、出会ったら走れ。


先日、友人ハルミがつぶやいておりました。「ダンナが最近、妙な特訓をして困っているのよね」

サントリーの新ジャンル「グラン・ドライ」のCMをご存じでしょうか。(なんだっけ? という方はこちらをクリック)

舞台は、高層ビルのオフィス。大きな窓の前にたたずむのは、背中に男の生きざまがにじみ出るスーツ姿の渡辺謙もとい、ハリウッドスター、ケン・ワタナービ。そのケン・ワタナービが肩越しにふりむきながらニヒルに一言「……リアリィ?」

「これって日本人が発音できる最高級のリアリィだよねっ、キレッキレのリアリィ〜だよねっ。リアリィの最初はリじゃなくてウだよね、ゥリアリイ〜〜?」

つって会話の途中でいちいち背中を向けリアリィリアリィ言っているダンナもどうかと思いますが、そんな話を愉快そうに話しているハルミに涙が出ちゃう、だって女の子だもん、じじょうくみこです。

友人紹介ルートでの出会いを求めるあまり、とんだ大失敗をしたことは前回お話しましたが、友の友友のダンナの友まで進んでもどうにもうまく事が運ばないので、ついには友の友のダンナの友というもはや知り合いってか他人?みたいなところまで進んできました。まあとりあえず網だけ張っとくかという気分でいたら、「いい人いるらしいって連絡きたよ」とまさかの朗報。

「55歳で広告代理店の男。けっこう遊んでるけど、いい?

いいわけないやろがっ


これはきっと他力本願な私に神様が「自分で動けや」と告げているに違いありません。とりあえず婚活サイトでも登録してみるかと思った矢先に、今度はふるさとにいる姉から連絡がきました。

「知ってた? 母さん、最近モテキなんだよ♪」

リアリぃ〜〜?

田舎に暮らす母は、どこから見ても立派な高齢者。父はすでに他界しているので、独居老人ぶりもすっかり板についてきました。若かりし頃は巨乳母性あふれるたたずまいで、仕事も育児もバリバリこなすたくましい母でしたが、仕事を引退した頃から次第に病気がちになり、やがて腎臓をわずらうと家にひきこもりがちに。食事制限で身はやせ細り、里帰りするたびに(枯れっぷりハンパない…)と悲しくなるばかり。

ああ、この人がいなくなったら私は本当にひとりぼっちになるんだなあ…と心細くなっていたのに、まさかのモテキ宣言!

母は2年ほど前から人工透析を受けるため、近所のクリニックに週3回通院しているのですが、そのクリニックでは毎回同じメンバーの患者が一緒に治療を受けるシステムになっているそうな。2日に1回顔を合わせるわけですから、当然ながら患者同士は親しくなっていきます。ふさぎがちがった母も同じ悩みを持つ茶飲み友達できて、表情がすっかり明るくなってひと安心。

というところまではよかったのですが、人間というのは厄介なもので、男女が同じ場所にいると、さまざまな「関係」が生まれるもの。

そう。



であります。



メンバーの1人である70オーバーのおじいさま、源さんが、何でもハイハイ話を聞いてくれる母をすっかり気に入ったというのです。源さんは妻に先立たれ、さびしい思いをしていたのでしょう。

クリニックであからさまに母への好意を振りかざし、女同士でしゃべっているところを横入りしたり、母だけえこひいきをしたり、貢物を持ってきたりと、クリニック中に知れ渡るほどの猛烈アタックぶり。

そうなると、他の女性陣はいい気持ちがしないわけですわな。別にその源じいが好きじゃなくても、です。そのうちに源じいが母に近寄ると「ほらあ、じじょうさん、源さんからご指名よお〜〜〜〜」と女性陣にからかわれるように。

治療にいくはずが気づけばクリニックに行くのがストレス、というわけのわからない事態になり、とうとう母は源さんに「てか、あんたのこと好きじゃないし。迷惑」と言い放ったという話でありました。

それだけじゃありません。近所に住んでいるやもめ暮らしの徳さん75歳が、ひょんなことから母を気に入り、隙あらばプレゼントを持ってこようとしたり、食事に誘ってみたりと、すさまじいアピールぶり。

「嫌だって何度言っても来ちゃって困るのよ。私はもう男の人は、いいの

って何その魔性っぷり? 母親がそんなモテ女だったとは知らなかったわ、てか女ざかりの娘より高齢者の母のほうがモテてるって思ったら死にたくなるわ?

そんなこんなで戦う前から全身ズタボロな心境になっていたのですが、後日「ねえ例のカレシとどうなったのお〜〜?」とからかい半分で母に尋ねてみたら

「ああ、源さんね、亡くなったよ」


じぇ〜〜〜〜(‘ jjjjj ’)


源さんはある日急に体調を崩し、あっけなくこの世を去っていたのでありました。「こんなことなら、もう少し優しくしてあげればよかったわねえ」と母は若干しょげていましたが(つっても発言が魔性)、それにしても老人の恋のなんというはかなさよ。源さんにとって母が最後の恋だったかと思うと、強引すぎた熱さがやけに切ない。

待ったなしだなあ、これからの恋は。

私もぼやぼやしちゃいられない! と決意を新たにして、まずは婚活サイトで活動開始。何人かの男性とやりとりを始めたところなのですが、

毎日2回、朝と夜に無言で私のページに足あとを残していく「タケさん 74歳」の熱視線が気になり始めた今日この頃です…。

By じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎

元記事はこちら。

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