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<23>留学生になったら、会社はいいとこだった。(でも辞めた)

2か月近く更新があいてしまいました、すみません~!
というわけで、じじょうくみこが誕生して丸10年。というわけで勝手に生誕記念⁉でウェブマガジン「どうする?Over40」に連載していた処女作の「崖っぷちほどいい天気」をこちらに転載いたします。

仕事、暮らし、婚活、すべてに四苦八苦していた10年前のわたくし。思い切って20年ぶりの会社づとめにチャレンジしたところ、配属されたのは、いわゆる雑誌の“付録“をつくる部署。

会社じゅうの変人を集めたんじゃなかろうか?というほど自由奔放な珍獣どもに振り回され、「会社員とは。社会人とは。自由とは」と自問自答する日々。

それでも20年ぶりの会社員生活は発見もたくさんあって、その後にとんでもないチャレンジをすることになるわたしの背中を押してくれた気がします。まあ、大変だったけど。

それでは、どうぞ~。


*** 2013年10月26日の記事***

留学生になったら、会社はいいとこだった。(でも辞めた)


覚悟はしておりましたが、3年前、20年ぶりに始まった会社員生活は想像以上に厳しいものでした。

まず通勤がつらい。「え、そこからもう?」と思われるかもしれませんが、40すぎて片道1時間の通勤は骨まで響く疲労感。こんなことを何年も何十年も続けているのかと思うと、明るいうちから酔いどれてるサラリーマンにもひれ伏してしまいそうです。

それから会社独特のルール。服装はどうの、エレベーターに同乗した際のふるまいがどうの、部長代理と部長補佐と部長代行では誰か上なのか。自由気ままに生きてきた人間には、パニックになりそうなルール責めであります。

ましてや私は派遣社員。派遣先のルールに加えて「派遣会社のルール」も守らなきゃいけません。たとえば電車が遅れて遅刻する時は、派遣先と派遣元と2ヶ所に連絡しなきゃいけない。仕事で外出する時は、たとえ1時間のお出かけであろうと派遣元に外出申請書を提出しなきゃいけない。もうね、市原隼人じゃないけど


勤め始めた頃は、会社員やるからにはちゃんと働こうと意気込んでおりましたが、何をどうやってもうまくいかない。唯一の頼りだった過去の経験も、所変わればほとんど役に立たず。他の人が当たり前のようにできることが、どうして自分はできないのかと自己嫌悪の日々。

とはいえ40代ともなると、そうそう愛らしく傷ついたりはいたしません。てかそもそも無理がききません。新人なのにベテランぽくふるまって煙にまけるのも、四十路ならではの特権であります。

その一方で「もっと効率的な方法がいくらであるのに、なぜこんなややこしい手順を踏むのか」とか「いい状態になっているものを、なぜわざわざ改悪するのか」といった会社の理不尽にイライラが募るばかり。「アンタたち、社内ではイバってるけどそれ世間では一切通用しませんからっ!世間の荒波に飲まれて一発ですからっ!」と詰め寄りたくなる日もしばしば。

でもねー、よく考えたら荒波に船出しないまま一生を終える人もいるんだよねー、と気づいてこぶしをおろす、というくり返しでありました。

ましてや配属された部署が珍獣パラダイスだったことは前回お話しましたが、とにかくキャラ立ちまくりの面々でありました。穏やかな笑顔でドSな指令をくり出す下町のプリンス・ワタさんを筆頭に、タフな交渉相手ほどイヤらしく攻めるイケズ京男・マツタケ、社内きってのモテ男・でも本当は女子よりおもちゃ大好きタカス、新人なのに「いつ飲みに行きます?」が口癖のオヤジ的飲みニケーションの達人ベッチ、どこぞの御曹司らしいという噂だがやることなすこと小心者サトウ、ガリ細すぎて時々陰が見えなくなるエジマックス

特にこのエジマックスが大変な男なのです。そこそこキャリアは積んでいるはずなのに、とにかく凡ミスが多い。作業効率が悪い。何言ってるか聞き取れない。あちこちから「こらエジマックス!!」「何やってんだよエジマール」「エジンバラ早くしろよー」と声が上がる日々。ここまで仕事ができなくて、よく会社員できるものだな、とあきれるくらいのレベル。

それでも当のエジマックスはニコニコ笑いながらマイペースで働いており、仕事はちまちましているのに失敗する時だけド派手な彼に業を煮やしたワタさんが、助っ人として私を呼んだのだということを後日知りました。

ともあれここまで会社員らしくないメンバーばかりの部署にいると、普通におとなしく会社員をやろうという意識が吹っ飛びます。そっちがそう出るなら、こっちにも考えがある。

じゃあ私は 留学生 ってことで!


要は、ここが地続きの日本だと思うからしんどいんですよね。だったら自分は文化も言葉も違う、遠い国にやってきた留学生で、しばらくの間ここで勉強させてもらいますスパシーバ、ムイビエーン〜という体でいればいいのではないかと思い至りました。

やり方が違うのも、言葉が通じないのも当たり前。自分のルールが通用しないのも、当然のこと。育ってきた環境が違うから〜好き嫌いは否めな〜い〜。だって異文化だもの。By くみを 

そう考えると、会社員生活がグッと気楽になりました。そうしているうちに、会社の良さが見えてくるようになりました。


コピーもファックスもネットも使い放題だし、パソコンが壊れたら取り替えてくれる。仕事中にケガをしたら治療費出してくれるし、人間ドックは無料で受けられる。何より体調不良になった時に代わりに誰かが仕事をしてくれる、とわかった時の衝撃。高熱出てても冷えピタはって働いて「もう疲れたよ、パトラッシュ…」とかつぶやいていた身にとって、「大丈夫ですからゆっくり休んで風邪、治してくださいね♪」と電話口で言われた時

……ヤダ、ここ天国にいちばん近い島?

と本気で泣けました。

そんな風に日々を重ねて迎えた、春のある日こと。
エジマックスが別の部署へ異動することになりました。

ゼロから発想するのは不得手な男でしたが、数字を分析したり素材を吟味したりする作業は得意なエジマックスにはピッタリな部署です。事実、あれだけポカばかりしていた彼が、新しい部署でがんばっていると風のたよりで知り、適材適所ってこういうことだなあとしみじみ。

そして我が部署はといえば、みんなの心の中に何か奇妙な穴がぽっかりと開いているのがわかったのです。仕事はスムーズに進んでいるのに、なんだかはりあいがない。やる気が出ない。どうしようもない、このぼんやりした虚無感。

「エジマックスがいないと、どうにも調子が狂っちゃうなあ」

ワタさんがぽつりと言った言葉で、私はようやくエジマックスがみんなの潤滑油になっていたことに気づいたのです。

ただそこにいる、それだけでチームをまとめる人がいる。その事実は私にとって、とんでもないカルチャーショックでありました。もちろん仕事ができない会社員がぬくぬくと生き残れる時代ではないけれど、人が1人いなくなるだけでこれほど雰囲気が変わるとは、なんというナイーブなバランスで成り立っていることか。

会社って面白いなあ。人間って不思議だなあ。
そんな風に思い始めた、春の日の派遣OLでありました。

By じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎

★おまけの相関図★

珍獣パラダイス拡大中

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