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<22>決死のハケンOLデビュー、その先の小学生男子。

じじょうくみこが誕生して丸10年。というわけで勝手に生誕記念⁉でウェブマガジン「どうする?Over40」に連載していた処女作の「崖っぷちほどいい天気」をこちらに転載しております。

4年ぶりにふるさとへ里帰りしてまいりまして、少し間があきました。4年ぶりに訪れたふるさとの風景は、どこもかしこも空き家だらけで過疎化スピードすさまじき。いま住んでいるシマ島だって、この4年で人が入れ替わり別の島のようであります。4年でこうなんだから、10年前なんてもはやヒストリー。

仕事、暮らし、婚活、すべてに四苦八苦していた10年前のわたくしですが、思い切って20年ぶりの会社づとめにチャレンジして、まさかこんな不思議な部署に配属されるとは。しかし10年たった今、取説って絶滅危惧種になっちゃいましたね。悲しみ。


*** 2013年10月19日の記事***

決死のハケンOLデビュー、その先の小学生男子。


20年ぶりの会社員生活が終わって3週間がたちました。

解放感に身を任せた1週目、混乱と寂しさにぐるぐるの2週目を経て、ようやく自分なりのペースが生まれつつある3週目。でも金曜夜のえもいわれぬ高揚感や、月曜朝の地面にめりこむような憂鬱感は、会社員でなければ味わえない感情なのだなあ〜と改めて思ったり。

そんな私じじょうくみこが3週間前まで働いていた職場が、とある商品開発部で「付録」を専門に作る部署だった、という話の続きです。

みなさまは「付録」と聞いて、どんなものをイメージされますでしょうか。

私の場合、真っ先に思いつくのは往年の「科学と学習」の実験キット、そして少女マンガ誌「りぼん」についてたポーチとか全プレとか。付録、大好きだったなあ。よだれ垂らして本屋に行ったなあ。応募券、集めまくったなあ。借りた雑誌の応募券を勝手に切り取って、友達なくしたなあ。

とにかく、あの頃のワクワクが体に染みついているので、今でも「集めてもらえる」「今ならもれなくプレゼント!」といったあおり文句にコロッとやられます。「期間限定」「限定20食」にも弱いです。

ですので、40代に突入して悲壮な決心で会社員になろうと決めた私ではありましたが、派遣会社から「付録を作る部署で仕事があります」と紹介された時、速攻で「それいただくわ?」と答えたのは、やっぱり「付録」の2文字にやられた感が否めません。

それにしても、最近は本当にいろんな付録がありますよね。キャンペーン期間中に商品にくっついているものもあれば、応募券を集めて交換するものなど、リリース期間や使用期間も実にさまざま。

種類も文具やストラップのようなアイテム系、バッグやアクセサリーなどのファッション系、種や花などの栽培系、ゲームソフトやアプリのようなデジタル系、冊子などの紙もの系…と、なんともはや。海外ではあまり見たことがないんですけど、付録って日本独特の文化なんですかね。

話がそれましたが、私が担当をすることになったのは「いろんな付録を作る部署で、付録のパッケージや注意ビラや取説などの印刷物を制作する」という仕事だったのです。

まあ。なんて地味なんでしょう。

同じ編集の仕事でも、雑誌の取材で芸能人に会ったり、カッコいいウェブサイトを制作するといったものと比べると、面白みのない仕事に入ると思います。だって考えても見てください。付録の袋や注意文を真剣に読む人がどれだけいますかって話ですよ。私ならまず読まないね。てか存在すら気づかないね。

それを自分がこれから毎日作るのかあ、と思うと正直ションボリする気持ちもありましたが、これも人生修業。40すぎて将来が不安なんでしょ、くみこ! 仕事はジリ貧だし、貯金も家もないんでしょ、くみこ! 結婚できるめども立ってないんでしょ、くみこぉぉぉーっ!!!  このままいけば、待っているのは

の・た・れ・死・に♪

(滝川クリステル風にお読みください)

ならばあえて制約の多い仕事をして、コツコツ真面目に生きるべし。もしかしたら付録をタダでもらえるかもしれないしねテヘペロ〜と若干下心もありつつ、私の中でひとつの時代が終わったような哀切を感じながら、仕事を受けることにしたのでした。


びくびく


ところが。

出社初日にド緊張で出勤してみると、オフィスはひと気もなくガラーン。私の直属の上司となるワタさん(アラサー男子)の話によると、この部署は海外の工場とのやりとりやら、作家さんとの打ち合わせやらで何かと外出が多く、日中はいつもこんな感じとのこと。とりあえず業務に関する説明をざっと受けて、ワタさんより「ハイ」と分厚い書類と、何やら得体の知れない物体を渡されました。

それは半導体がどうのっていうニュースなんかで見かける、緑色の基盤のようなもの。

こんな感じのやつ

ポカーン、であります。

く「え? こ、これは?」
ワ「これ、付録の中身。試作機ってやつだね。外見はまだできてないので、とりあえずこれをいじって仕様を確認してください」
く「は、はあ…」

どうやらこれは何らかのデジタル的なものが内蔵された小型付録、になるらしい。らしいが何しろ実物がないので、完成図がいまいちわかりません。ともあれ付録のパッケージや取説って本体が完成する前に作るらしい、ということだけはわかりました。専門用語だらけの分厚い仕様書とか、半導体みたいな基盤むき出しの試作機とか、イラストや外観サンプルとかを参考に、作業を進めないといけないわけです。

ワ「これを使った人がどこにつまづくのか、考えながら取説作ってください。文字はできるだけ少なめに。でも注意事項は全部入れて、わかりやすくお願いしますねー」

ありったけのブツをどっさり置いて、ワタさんは「あとよろー」とばかりに爽やかに去っていきました。

おおお

付録ってこんな想像力が必要なの??


これはなかなか、思った以上に難易度の高い仕事のようだぞ。

そんな予感がした午後、ひとりの男子社員が帰ってきました。180cmは軽く超えてそうなスラリ長身、でありながら体重50kgないんじゃないかという残念すぎるガリガリ具合。うっかりすると陰が見えないんじゃないかと思うくらい生命力のないその20代男子は、ワタさんにエジマックスと呼ばれておりました。そのエジマックスが私に気づくと、ツツーと足音もなく近づいてきました。

エ「あの…じじょうさんにお願いが…この付録…ゴニョゴニョ」
じ「えっ?」
エ「この付録が……子供向けなので………ゴニョゴニョ」
じ「はい? 何ですか?」
エ「子供向けの付録なので、楽しくしたいんです……」
じ「ええ。それで?」
エ「マンガを…」
じ「マンガ」
エ「つけたいんです」

エジマックスはおもむろに私の前に置いたのです。コロコロコミック少年ジャンプを。

エ「こんな感じで…マンガかいてくれますか。小学3年生くらいの気持ちで


はああああ?


要は付録を作っている人は商品企画のプロだったり技術者だったりするので、印刷物にはすこぶる弱いと。最近付録の数が多くなってきたこともあって、私のような編集畑の人間をハケンさんとして初めて雇ってみたと。そういう事情のようですが、それにしても妄想でマニュアルを書くとか、小学生になりきってマンガをかくとか、ちょっと付録の振れ幅デカすぎじゃないのか。

しかも出社して数日たってようやくフルメンバーを確認できたのですが、メンバーの9割が20〜30代の男子。しかも企画開発なんてやってるせいか、かなりキョーレツな個性の持ち主ばかり。他の部署はゆるふわ女子やお堅い事務系社員が多かったので、私のいる部署は「へんてこな機械を並べてグフグフ喜んだり、奇妙な音を出している珍獣男子の集まり」といった風情で、フロアの中で完全に浮いておりました。

付録なんか作ってる男子はね、もともとゲームとかおもちゃが好きな人が多いわけですよ。大の大人が会社でガンプラとかモンハンとかパズドラの話題でキャッキャ言ってるわけですよ。自然とノリも男子校的になっていくわけで、他の部署から若い女子が話を聞きに来たりすると、

「なに告白? 告白しちゃうの?? ヒュウヒュウ〜〜〜♪」

って小学生男子か!


ようやくわかりました。四十路の私が呼ばれたのは、この自由すぎる付録メンズのおシリをペンペン叩いて面倒を見ろってことなのだと。トホホな気持ちになりつつも、どうやらここでの生活は覚悟していたような退屈な日々ではなさそうだ、という気配も…。

じじょうくみこのアラフォー派遣OLデビュー戦。波乱の幕開けでございました。

By じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎

★おまけの相関図★

四十路ハケンOL編スタート

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