熱意の引力
寒い。朝晩はもう完全に冬だ。
こんなに暑苦しいタイトルなのに。
日中は随分とひんやりしているし、出囃子と共にようやく舞台に上がったと思えば光の早さで退いていく秋が不憫でならない。まるでかませ犬状態だ。
けれども過ぎたる季節に思いを馳せるいとまもなく、今度は冬がお待ちどおさまと言わんばかりに我が物顔で闊歩している。
今年は特に極端な気候だったけど、
僕は秋だってきっと頑張っていると思う。
紅葉を、秋の味覚を、シャツに薄い羽織で過ごせる日がな一日を僕らに届けようと頑張っていたはずだ。
ただ夏が調子に乗り過ぎた。
悪いのは引き際をわきまえていない夏であって、秋は何しているんだと責められる筋合いはないはずだ。来年からは七夕に夏が早く終わりますようにと願いを込め、織姫と彦星のロマンチックな逢瀬を急かして雰囲気をぶち壊してやろうと思う。
こんにちは。
人間性に疑問を抱かれそうなので本題に入る池本です。
ここまで寒くなると皆さん何が恋しくなるでしょうか。
そうですよね!ニットですよね!!
ニットらしく嵩があって暖かいやつ。
そして暖冬が噂される今冬はアウターのように羽織れるニットアウターの需要も高いと感じています。
そんな折、まさに欲していた通りのアイテムが入荷いたしました。
公にはBandOという匿名の夫婦ユニットで活動されているSlopeslow。
昨シーズンが1stシーズンであり、今年からお店に通ってくださるようになったお客様の中にはまだご紹介出来ていない方もいらっしゃると思います。
奥様のBさん、旦那様のOさん。お二人とも長年に亘ってアパレルデザイン、素材づくり、と違う角度からアパレルとニットウェアの製造に携わってこられた経歴をお持ちです。
糸のスペシャリストであるOさんの
「こういう物が出来ないだろうか」
これをBさんが一つ一つ地道に形作っていくところから全ての企画は始まっているそうです。
今回もその例に漏れずストライプのカーディガンを今、自分達らしく作るとしたらどういう物が出来るだろうか。ここからスタート。
ストライプのカーディガンと言えばアルパカを使ったFANNI LEMMERMAYERが代表的。
70年代の古着のニットでも見かけますね。
それでは見ていきましょう。
まず糸には1stシーズンから継続しているカウチンや求心タートルと同じ仕立ての糸を使用。素材にはヤクとラムウールをブレンドしたオリジナルの糸。
手編みカウチンと糸の仕立て自体は同じというのが驚きです。写真撮り忘れたので店頭で是非見比べてみてください。
同じ糸を用いても、何本撚り合わせるか、目付やゲージはどうするか、編み組織はどうするのか、これらの組み合わせで同じ仕立ての糸でも全く違う表情になるのがニットならではの魅力。
ヤクはカシミヤに匹敵するほど繊度が細く、保温性も同等。
通気性にも優れているので蒸れにくい。ウールに比べると表面のスケールが平滑でチクチクせず優しく繊細な肌触り。
ヤクと聞くと軽くて柔らかいイメージがあったが、これはモチっとして気持ちの良い肌触りはそのままにずっしりと重い。嫌な重さではなく、重厚感をそのまま纏うような重さ。
目付が凄いし、ゲージも細かい。
カシミヤに比べてちょっと粗野な風合いがある。
経年変化を経てもなお、タフで上質な長く付き合っていけるニットウェアを目指しているslopeslowの良さがここにあると思います。
編み組織はリンクス編み。
両頭編み機(リンクス・アンド・リンクス)を使って編まれることからこの名が付けられたそう。
縦方向の伸縮性が高く、編み上りは厚めの編地に。また、編地はカールしにくく地厚で暖かいので寒い時期に適している。
横方向に畝が入るのでボーダー柄などが映えるが、今回はこのボーダーを逆方向に使いストライプを表現。
ボタンホールはミシンではなく、編みで開けている。
生産を依頼した新潟の工場は、slopeslowが国内最高水準と信頼を寄せているそうだ。
技術的には面倒で大変な労力がかかる手法。
しかし、その工場の技術力をもってしても今回のリンクス編みでのボタンホールは既存の編み針では難しかったけれど、新しく針をオーダーしてまで実現させてくれたらしい。編みなのでスチームで伸びたホールも戻せるそう。
細かい部分ですが長く着用できるように工夫が凝らされている。こうした技術力に支えられて長く付き合っていける服が作られている。
表地と見返し側、両方から開けて手作業でまつって仕上げている。
見返しがネイビーでさり気なく色を切り替えているのも良い。
そしてボタンはキャッツアイ。
糸が表面に浮かないのでスッキリした印象だし、糸自体の擦り切れの心配がない。
縫い代の始末も綺麗です。
しっかりとアイロンをあてて寝かせているので縫い代のあたり方が気にならない。
あと柄が前身頃だけなのが、クールな色合いも相まってモード感のある雰囲気で良い。古着のような野暮ったさとメゾンのような高級感が合わさったような。この他にはないバランス感が好きです。
あとは着てみましょう。
70年代の香りを漂わせるならブーツカットにショートウエスタンも良いかと思いましたが、ブーツカットもなければショートウエスタンも無い。そもそもやり過ぎな気もするので割愛。
ブルーのデニムはHPで合わせているのでそちらで。
インディゴのデニム。
レマメイヤーのようにハイネックをインナーに、チノパンやスラックスを。
ストライプにチェックの可能性を割と信じている。規則性が強くなければ合わせられるはずだ。例え不評であろうとも。笑
軍パンがあれば軍パンも相性が良いと思います。
むしろ一番良いかもしれない。よくスタイリングの相談をしている、当店のスタイリングアドバイザーも軍パンだと言っていた。
slopeslowのニットには重さがあると言いましたが、それは何も目付だったり、お二人がタフで重厚感のある物を好んでいるといった物理的な問題だけではないと思っています。
お話を伺っていると編み手さんや、生産先、ひいては僕たちのように最後の最後に商品を皆様に紹介しているセレクトショップ。
関わる人達への敬意と感謝を常に持たれているし、日本の物作りの現状と行く先も憂慮されている。
是非皆様もProduction Notesとインスタグラムを。
言葉は丁寧で穏やかだけどその奥には静かに燃ゆる熱意を感じる。
「嫌だと思うことはやらない」というのは覚悟のいる事だと思う。
slowという穏やかな名前からは想像がつかない程、確固たる意志と熱意を持って物作りに向き合っている方々だと思う。
だから毎シーズン引き寄せられるのだろうか。
北村透谷も「熱意は力なり。必ず到着せんとするところを指せる、一種の引力なり。」と言っている。
熱意が生むこの引力に負けて、気付けばニットと諭吉を握りしめてレジに向かっている。
タイトル回収です。
最近タイトルを考えるのが一番大変な事に気付きました。
今回は新型のリンクスをご紹介しましたが去年は強撚シェットランドとクリケットを買ったので、その魅力も是非お伝えしたい。
今週末は是非店頭で。
と、色々と書いてみたはものの、Production Notesをご覧いただく方が圧倒的に分かりやすいかもしれない。
手編み、機械編み、〜編みだとは言ってみても、知識としては知っているけれど実際に自分でやったことがある訳ではない。
実際に説明してみても、自分自身輪郭がつかめないままといいますか。
そこで天啓に導かれました。
そう、自分で体験してみれば良いじゃないかと。
布帛はどうしようもないけれど、編み物なら自分の身一つでやってみる事が可能だ。
布帛と比べて簡単だと言いたい訳ではないですよ。
1を知って10を知るじゃないですけど、少しでも同じ目線で話したいというか、純粋に知りたいというか。
昨年、羊の毛を刈りたくなって奈良の山奥まで行ったこともある。
気になった事が本当にそうなのか実際に自分でやってみたくなる生来一直線の猪タイプ。もちろん生まれは猪年。
手芸店のお姉様にそんな簡単にセーターが編めると思うな、ここから始めなさいと諭されてとりあえず言われたままに道具を買い揃えた。
まずはたわしから始めろと。
どうやら道のりは険しそうです。編めたら見せに行こう。
と思っていたが、想像以上に複雑で初歩中の初歩、作り目の時点で心が折れている。13目編みましたが、ここまでで1時間半かかりました。
図画工作、美術の成績が最も悪かった手先不器用人間にはハードルが高いかもしれない。
という事でセーターが編めるようになるその日まで、池本の手編み奮闘記が不定期に更新されます。次回は「基礎のメリヤス編み、いざ実践」をお届けします。
嘘です。
今週末はslopeslowのニットを着てお待ちしております。
Slopeslow / YAK LAMBSWOOL LINKS STRIPES CARDIGAN
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