急須

煎茶道 「道」が付かない茶の風景

 茶道と云われ皆が描く風景は茶筅で点てる一服、抹茶道。同じ茶ではあるが、多少文化の流れが変わり「煎茶道」と呼ばれるものがある。
 抹茶道は茶道の祖珠光が築いた「侘」の境地を千利休が完成させたものをいい、この抹茶道は主に武家社会に浸透。武士の密会の場に使われもした。
 一方、煎茶道は、江戸時代中期以降に文人墨客たちの間に流行。当時は茶道の形骸化が進む中、それに異議を唱えた知識人たちが形に捕らわれない茶道として見出したのが煎茶道。

 実は昨夜友人との会話の中で「職場二十代同僚が急須を家に持たない+急須でお茶を淹れられない」ととんでもない話が出てのこの展開となる。

 我が家は、日本茶用、紅茶、中国茶用と三種類の急須とポットが一つでおさまらず種類毎に幾つかずつある。これに、抹茶、エスプレッソとドリップコーヒーが加わり茶器の種類はこうして書いていて驚くほど賑やかである。
 日本は食器の種類が多いと云われる見本になるような我家の食器棚。だからこそ、尚のことペットボトルのお茶しか知らない人の存在が記事を超えての実在に驚いてしまった。そして、その彼女が教員というおまけ付き。

 気になって調べてみたところ、緑茶の消費は減少傾向にあるが「緑茶飲料」は好調。(*緑茶飲料:缶・ペットボトル・紙パック等)緑茶飲料の95.5%がペットボトル入りで販売(平成27年度)され,1996年と2005年の比較では5.5倍以上に増加している。
 ペットボトルの手軽さは本来は自宅飲料ではなかった筈だ。外出先で乾いた喉を潤す選択肢に「急須で淹れていた緑茶」がまさかの展開で登場したのではなかったのか。

 日常茶飯事・お茶を濁す・茶化す・茶々を入れる・茶番・臍が茶を沸かす・お茶の子さいさい…「茶」が身近にあっただけではなく、一部特定の人の物でなかったからこそ茶にまつわる言葉は山のようにある。
 この身近にあった筈のお茶(急須で淹れる緑茶)が家から姿を消すと、煎茶道のように文化として一段上げた世界へ移行し、益々生活の中からお茶の文化が消える。

 紅茶がそうであるように緑茶も季節、産地で味わいが違い、楽しみは多くある。美味しい水で葉に適したお湯の温度を調整し、好きな茶器でいただく。気分によって茶葉も茶器も変えられる。
 ほんの数分、気分転換に時間を割く。その時間は香りと共に尖った気持ちを丸くしてくれることも手伝ってくれる。

 お茶を淹れる時間を作ってみませんか。
 

 

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