今週読んだ漫画(〜2022/01/12)

■定期更新2回目です。今週も2作品ほど取り上げます。

―――女装姿での暗殺を生業とする男子高校生殺し屋・富田結途。ある夜、ターゲットを始末した帰り道の富田に『今から会う奴を殺せ』という正体不明の指令が突然下る。しかし彼の前に現れたのは何から何までが自分と瓜二つな『もう1人の富田結途』だった。"僕"と"僕"の同一人物コンビが繰り広げる痛快エンターテイメント殺し屋アクション開幕!―――

■こんなもん面白くならないわけがねえだろ!!??な、ヨクサル先生の切っているネームらしい絶好調の滑り出しを見せる1作。いや~~流石にべらぼうに面白いです。今まで読んでなかったことを後悔しましたが読者側のカロリーも過大に使う脂っこい漫画であることもまた確かなので、Twitterの試し読みで流れてきたのをきっかけに3巻まとめて読めて良かったかもしれないなとも思います。■特に面白いなと感心してしまったところは、主人公である"トミタ君"ともう1人の主人公である"ユズ"は元を辿ればクローンさながらの完全同一人物『富田結途』に他ならないが、2人いる人間がその後の人生をまったく同じように送れるわけは当然なく、それぞれの富田くんに異なる出来事が作中にて降りかかっていくところ。片方の富田くんが女装して高校に通う羽目になったり恋愛禁止の掟を破って同級生に全裸で告白かましてしまったりする一方で、もう1人の富田くんはそんな自分の姿にドン引きしつつも1巻時点で殺しの標的に尻の穴をあわや破瓜寸前まで犯されそうになったりします。本来であれば思考パターンも全く同じはずの同一人物が、個々に異なる経験とそれに伴う前提の積み重ねによって徐々に徐々にどこかバグのように"別の人間"に何故だか仕上がっていくさまは、厳密には異なりますがクローン技術を取り扱った漫画さながらの独自の面白味を感じますね……八十八良先生が誇る傑作『ウワガキ (全4巻)』が好きな人などもオッと思うポイントがあるかもしれません。それにつけても「僕…本当に…唐墨さんが好きなんだ…」と口にする富田くんにもう一方の富田くんがドン引きしながら口にする「それは脊髄エロ反射の恋妄想だよ」が愉快すぎる。紛れもない自分自身の"可能性"の1つである姿が性別を偽って同級生の美少女とお風呂に入って射精してたらそれはマジで嫌だろうな…と理解させられる。■ヨクサル先生漫画らしく畳み掛けるように多い登場キャラクターの人数と各キャラの性格面のエグみある癖の強さもやはりと言うべきか外せない魅力。2巻から登場する胡散くさすぎる35歳探偵・倉田と両腕折られて射精するヤバすぎる脱サラ殺し屋・石田の珍妙なコンビも一言で萌えですね。散りばめられた伏線や謎も多く、4巻以降もかなり楽しみです。

―――歳相応に人間関係への悩みを抱えている男子高校生・笠縫は、とあるきっかけから自分を助けてくれた大学生の尚に過大なリスペクトを寄せる。バイト先のカフェに毎日押しかけてくる笠縫に尚は困惑しつつも徐々に『友達』になっていく2人。それぞれの歩く速さで。丁寧に緩やかに描かれる年齢差の恋のお話。―――

■単巻完結。ちぐはぐなようでバランスの取れている2人の性格差&年齢差なコミュニケーションに何とも身悶え。あからさまに大型犬タイプな笠縫くんが尚さんにグイグイと強引に尻尾を振って懐いていくさまが見ていて微笑ましい一方で、小説本の聖地巡礼旅行のお誘いを咄嗟にしたのちにいざそれを快諾されると「ほ…ほんとに!?」と思わず狼狽えてしまう、そういう距離の詰め方の不器用さもとても一生懸命で可愛いですね、笠縫くんはさ…。「オレ 尚さんみたいに誰にでも優しくできる人になりたくて 尚さん研究中なんですよ今」「他人は自分を映す鏡 尚さんのそばにいれば 俺もあんな風に振る舞えるようになれるかな」といった笠縫くんの台詞やモノローグが物語っているように、とにかく"優しい人になりたい"と願っている笠縫くんが尚さんの人柄に惚れ込んでリスペクトして人間的に近付いていこうと模索する流れが話の主線なのも読みやすくて◎でした。恋愛要素が言語化されるのがかなり遅め(120ページ目あたり!)な部分もこの漫画が友情発のラブストーリーな事をこれでもかとストレートに補強していて味わいが豊かですねえ。■スタート地点におけるこの2人は常連客とカフェ店員の関係性に過ぎない結果、序盤はずっとお互いに敬語同士のまま会話が進むところも素直に可愛いです。尚さんが「そろそろタメ口で話しませんか?」と切り出すタイミングの絶妙さが好き。肩の力を入れすぎない人間関係がしみじみと上手な人だ。その直後に勝手に同年齢だと思い込んでいた笠縫くんが年下なことを知って「これが俺の短所だぁ…人のことロクに知りもせず仲良くしちゃう…」とめずらしく凹みまくるくだりも可愛い。■おそらくは作者さんの手癖なんでしょうが一部の登場人物が「^▽^」「>▽<」←こういった顔文字のように極端にデフォルメされた表情で描かれることが作中でとても多く、しかしこの手の表情が尚さんの底抜けに明るくカラッとした人間性とまた巧いこと噛み合っているな~…!という印象を受けます。■尚さんのように……この人のように何でも素直に口にできる人当たりの良い人間に、オレもなりたい……!!!(ドン!!!)という努力が滅法おかしな方向に転がったせいかマジでありえないほど告白シーンが素直すぎる笠縫くんのくだりに一番萌えさせて&笑わさせてもらいました。酒癖終わってる大学生連中の飲み会での悪ノリ醜態を目にして「オレにも友達とキスくらい 軽率にできるノリが必要なのかな」などと本気の目で考えちゃう系マジメ高校生、いいよね……。

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